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■片想い未満

「よ──し、明日から試験期間だッ!でも自主練サボんなよ!」

「うッス!」

「んじゃあ、解散!」
お疲れしたーと一礼の後、響くシューズの音。
これから2週間、放課後の部活は休みで朝練のみになる。
学生なら避けては通れない試験期間だ。

だけど、いつもと違う。
この違和感をどうすべきか。

悩むこと約0.5秒。
わからないことをわからないままにするのは良くない。
うん、これは勉強も同じだ。

と、いうわけで、
俺、赤葦京治は違和感の主に直接疑問をぶつけることにした。


「木兎さん。」

「おッ、赤葦!なんだ、自主練か?まだやるか?」
試合で見せる姿そのまま、単細胞を地で行くその人。
頭の中は常に───部活、部活、部活、バレー、バレー、バレー。

そのはずなのに、

「いえ、それはそれでいいんですが、」
一体どうして……

「試験前の割りに楽しそうに見えるんですが、どうしてですか?」

「な、なにィィィ?べっ、別にそんなことないだろ!」
どうしてそんなに浮かれているんですか、とありのままを口に出して聞いた。
途端に慌てるのだから、やはり図星だったらしい。

「楽しいわけねーだろ!部活したいし!スパイク打ちたいし!試合してーし!」

「勉強はイヤじゃないんですか?」
ウソが下手な人だ。

「うッ……!」
部活がしたいと言うクセに、「試験が嫌だ」と言わないのだから明らかだ。
試験期間を───木兎さんは楽しみにしている。

だけど、
「いつも赤点ギリギリなのに?」
おかしい、そうおかしいとしか言いようがない。

スポーツ特待生とはいえ、試験は逃れられない学生の定め。
そして、木兎さんは勉強が不得手だ。

「なッ、おまえー!自分が成績いいからって!」

「でも、本当のことでしょう。」
それなのに、どうしてこんなにも嬉しそうなのか。


と、その疑問は、

「赤葦―、なんだおまえ知らないんだ?」

「え?」
猿杙さんの含み笑い。
一応確かめたけど、本当に笑ってる時の顔だ。

「ギャー!猿杙!言うなッ……!言わないで!」

「って明らかに言ってほしそうな顔ですけど。」
明らかに嫌がっていない木兎さんに俺の疑問は膨らむばかり。


と、その時だった。

「木兎―、お迎え──!」
女子マネの声がする方を振り返る。

「!」
マジかよ……!
っていや、すみません木兎さん。
本気で驚いてしまいました。


なぜって、

「ゆい!悪い、すぐ上がるから!」
飛び上がるんじゃないかってくらい嬉しそうに、木兎さんが手を振った先に───笑顔で手を振り返す女の子。
彼女、ですか。
あの木兎さんに?バレー馬鹿の木兎さんに?いや、普通に馬鹿な木兎さんに??


「あはは、赤葦びっくりしてんなぁ。」

「いや……ええ、まぁ。」
猿杙さんに聞かれて頷いた。
木兎さんに聞かれたら怒られるだろうが、本当に驚いたんだから仕方ない。

「三日月、木兎の彼女。ついでに学年トップ10の秀才。」

「えええッ!」
って猿杙さん、俺のキャラ変わるからあんまり驚かせないでください。

だけど、
それって……ええ?!マ、マジすか……。


「試験勉強、教えてもらうのが楽しいんだろ。木兎って単純だからさ。」
そう、木兎さんは単純でストレートで直情的でまっすぐで……いや、だけど。

「はじめまして、三日月です。赤葦くんだよね、いつも光太郎から聞いてます。」
猿杙さんに背中を押されて向かった体育館の入り口、微笑む様子が眩しい。
清楚な雰囲気と知的な眼差しが印象的な美人だ。
この人が木兎さんの彼女……ってまさに美女と猛禽類。

「どうも。」
へこりと頭を下げると、

「三日月、赤葦が木兎なんかのどこがいいのか聞きたいんだってさ。」

「ちょ!猿杙さん!」
何食わぬ顔の猿杙さんに慌てる。
だけど、彼女は「あはは」と明るく笑って、


「よく言われる。」
悪戯な視線を投げて寄越した。

「でもね、みんなと多分一緒。」
不覚にもドキリとなって、急いで視線を逸らすけれど、

「光太郎といるとさ、小さい悩みとかぜんぶ飛んじゃうじゃない?そーゆートコ、好きなんだ。」
また吸い寄せられる、引力。


「ワリ!待ったよな、ゆい!」
いつもジャージのクセに今日は制服に着替えて部室から戻ってきた木兎さんに、再び可笑しさが込み上げる。

「だいじょぶ。じゃ、帰って勉強がんばろ!」

「おう!」
って、返す返すもマジですか、木兎さん。
だってアンタ、勉強って……。


「じゃあな、おまえら!」

だけど、少しだけ羨ましい。
コートの中と同じくらい誇らしげな、でもコートの中じゃあり得ない照れくさそうな木兎さんの表情。

皆と一緒に冷やかしながら見送って、笑う。
日の落ちた道を歩く背中が、なぜか眩しく見えて不思議だった。



浮かれるのもいいけど───ちゃんと試験頑張ってくださいね、エース。
赤点なんか取られたら、困るのは俺たちなんですから。


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