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□かみさまの箱庭 2

ちょっとだけイレギュラーなこともあったけど、過ぎてしまえば過去は過去。

鍛治くんの練習は相変わらずキツくて、若利くんのスパイクは今日もキレッキレ。
賢二郎は相変わらず工に冷たくて、だけどその工は元気いっぱい。
太一が1年の女の子に告白されたって言って、付き合うかどうかで英太くんと賑やかに話してる。

俺の日常。
いつもの毎日、今日も通常運転。


そう思ってたんだけどさ。

インハイ予選直前の練習試合。
チアとブラバンも加わって、本番さながら。

その日──二階席の彼女と目が合った。


(え、)
涙がキラリ。

嘘でしょ、ていうかなんの冗談だよ。
だけど、多分見えた。

音楽に合わせて刻まれるダンス。
その瞳に浮かんだ涙。

一瞬目が合って、そらされて、それから彼女は正面をむき直した。


(俺を、見てた。)
あの視線が忘れられなくて、試合中にも何度かそこを盗み見た。
だけど、視線が合ったのは一度きり。
彼女はずっと正面を向いたままだった。


気になる、なんてどうかしてる。
付き合うとか、考えたことがない。

自分で言うのもなんだけど、はっきり言って俺は変わり者だ。
周囲と同じじゃいられない、無理して合わせるとかそんなのできないし、白鳥沢のチームメイトが当たり前みたいに俺を受け入れてくれてることだっていっそ不思議なくらいだ。


だけど、

「あ、」
試合の後の体育館。
これからミーティングで反省会。
何度かブロックを読み誤って、これから鍛治くんに怒られなきゃいけないってところ。

それなのに、会ってしまった。
入り口近くの廊下で、俺は彼女と会ってしまった。


それで、今度こそはっきり見た。
彼女の瞳に、涙の膜が張るのを見た。

そんな悲しい顔しないで。
俺のことなんか好きになるなよ。

英太くんとかさ、どう?
太一だって、悪くないよ。
もっといいやつなんていっぱいいるんだからさ。

心の中の声がそう言ってる。
だけど、言葉が出てこない。


キレーな泣き顔に、俺は見とれて、

「すみません、先輩。失礼しました……!」
駆け出そうとした彼女の手を、咄嗟に掴んでいた。


「待って!」

「ッ、」
呼び止めて、どうするつもりなんて考えてなかった。
だけど、反射的に手が出ていた。

「待って。」

「先輩。」

「待ってよ、ゆいチャン。」
こんなのってどうかしてる。
まるで冗談、本当にそう思う。

だけど、その手を俺は離せなくて──


「女の子に泣かれるのって、イヤなもんだね。」
そう言っていた。

「君のこと、好きかどうかわかんない。でも、泣かないでほしいって思う。」
こんな風に本心が、するりと出てくることもあるんだなって。
18年の人生で、これってなにげに発見だ。


「て、んどう、せんぱい。」
俺の名前を呼ぶ声、俺を見つめる瞳。
これが全部、俺のものになるなんて──そんなことあっていいって思わなかったけど。


「ゆいチャンと付き合うよ。」


それで、彼女は俺の「カノジョ」になった。


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