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■恋の叡智 1

「あれ、一人で学食?珍しいじゃん!」
お財布とスマホを片手に階段を降りる途中、クラスメイトの古森に声をかけられた。

「んー、まぁね。」
曖昧な返事にはワケがある。

「なに、あいつらとケンカしたの?」

「え、違う違う。」
いつもは友だちと一緒。
だけど、別にケンカしたわけじゃない。

女子高生の毎日は意外とフクザツ──いや、いたってシンプル。
男>女友達って日が、たまたま今日だったってだけ。


「なんかたまたま、みんな彼氏とゴハンって。」
別にいいんだけど、と告げた声が不満げに聞こえたのか、

「お─。」
と少し言いよどんだ後、

「てか、ブッハ!おまえだけ彼氏いないのかよ?!」
と古森は笑いながら言った。

「はい、そこ。笑わない。」

「いや、ごめん。ウケるけどごめん。」

「ウケないでよ。」
「ちょっとは遠慮してよ」と横顔を見上げたら、「元気だせよ」とまた笑われた。


「じゃあ、今日は俺が一緒に食ってやるよ。」

「別にいいし。」

「遠慮すんなって。」

「私は古森と違って奥ゆかしいタイプなの。」

「どこがだよっ。」
古森とはこの4月から同じクラス。
私たちの通う井闥山学園高校は男子バレーの強豪校で、古森はそこのレギュラーらしい。
いわゆる推薦入学組というヤツで、私たち一般生とは待遇やらなにやら違う部分も多い。

そんな中にあって古森はよくも悪くも普通の男子で、どこか近寄りがたい他のバレー部員とはちょっと違う雰囲気だった。


「三日月、何食う?」

「うーん、どうしよっかな。午後体育だし、軽めにしよかな。」
一緒に食べることは古森の中では決定事項のようで、

「いつもバレー部で食べてなかった?」
そう聞くけど、

「別にそうでもないよ。あ、でも三日月一緒に食う?誰か紹介しよっか?」
言いながら食券の販売機へと向かう。


「え、いい!いいから、そういうの。」

「えー、そうかぁ?」
「いいヤツいるけど」って古森は言うけど、これは本当に遠慮じゃない。

だって私、バレー部ってちょっと苦手だ。
古森は話しやすいけど、他の人たちはちょっと違う感じ。
特別なコーチに特別なメニュー、学費だって特別待遇となれば仕方ないのかもしれないけど、見るからに別階級って雰囲気で同じ高校生とは思えない感じだし、みんなすごい背が高いのもあって迫力ありすぎて近寄りがたい。


特に彼──

「あ、佐久早。佐久早─!」

「あ、ちょっと古森!」
止めてよとはさすがに言えなくて、だけど慌てる。

佐久早聖臣。
私や古森と同じ2年生だけど、とにかく人一倍取っつきにくい雰囲気!
全国屈指のスパイカーでバレー部のエース、校内で知らない人はいない。

とにかくすごい人らしいけど、同じ学年の私もどんな男の子なのかってことはほとんど知らない。
無口らしいとかちょっと変わってるとかたまに話を聞くけど、さもありなんって感じ。
背も高いし、いつもマスク姿なせいか表情も見えないしで、廊下ですれ違うだけでちょっと緊張する感じなんだよね。


その佐久早くんを古森が呼び止める。
ムリムリ、一緒にゴハンなんて絶対ムリだってば。

「ねぇ、古森ってば!」
だけど、

ちらり、と向けられた視線。
それがすぐにそらされて、

「おーい、無視かよー!」
その古森の声も聞こえないみたいに、佐久早くんはふいとどこかへ行ってしまった。


「ま、いっか。食おうぜ、そこあいてる。」
そんな対応も慣れているのか古森は気にしない様子で、見つけた空席に運んできたプレートを置いた。
その向かいに私も腰を下ろした。

「あの人いつもあんな感じなの?」

「ん?」

「佐久早くんって人。」
買ってきたサンドウィッチのビニールを破って、ミルクティーを一口。

「あー、あれは照れてんじゃない?」

「はぁ?」

「佐久早でしょ。」
そう言って、古森はカレーライスをスプーンで掬った。


「意味わかんない、なんで……。」
言いかけた私の言葉を、古森が遮った。

「それよかさ!さっきの話!」

「さっき?」

「おう、誰か紹介しよっかって!」
蒸し返されて、今度は別の方向にまた戸惑う。

「いいよ、別に……。」

「なんで?友だちみんな彼氏いて余ってんだろ?」

「余ってるって!」
本当に遠慮知らず。
誰かオブラートとか気遣いとか教えてやってよと思うけど、それはそれで事実だから言い返せない。

「三日月、結構モテるじゃん。」

「別にモテないよ。」

「でも、この前野球部のヤツに告られてたろ。」

「ッ、なんで知ってんの!」

「割と有名。あと、5組の男もフッったって聞いた。」

「なに、もー。」
会話の合間にお皿の上のカレーライスをどんどん消していく様子に、目を見張る。
そのお皿があっという間にカラになって、

「とりあえず付き合ってみようとかさ、思わないわけ?」

「だってさ、よく知らないのに付き合うとかイヤじゃない?ていうか付き合うって何すんのって感じだし。」

「え、何。そっち系?エロい話?」

「違うよ。ていうか、なんで私の恋愛相談みたいになってんの。」
ため息と一緒にそう告げると、「ちょっと待ってて、パン買ってくる」って購買へと走っていった。


それから、

「いいってば。」

「遠慮すんなって。」

「いいって言ってんじゃん。」

「大丈夫だって。」
綺麗に片付いたお皿とパンの包みが二つ。
残ったお昼休みはまだ20分以上あって、私と古森の押し問答は続いている。

「三日月、あのな。そういう慎重派のおまえにぴったりなヤツ知ってるから。」

「だからいいって。ていうか、どうせバレー部の人でしょ。」

「俺だってバレー部以外にも知り合いいるし。」

「だけど、いいってば。」
そんなやりとりが10分は続いた後、

「あ、ヤベ。午後体育じゃん。戻ろうぜ!」
古森はいきなり立ち上がった。


「そういうことだから!後で、LINEするから任せとけよ!」

「頼んでないってば!」


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