□星なきよるに思うこと 4
稲荷崎高校に転校してきて、2ヶ月が過ぎた。
授業にも慣れたし、友達もできた。
LINEする相手だって、今は東京の友達よりクラスメイトの方が多いかもしれない。
宮くんとは、変わらず席が隣同士。
LINEのIDを交換したけど、最初にスタンプを送り合っただけでそれっきり。
最初の頃はやたらとドキドキしっぱなしだったけど、それ以上の進展なんて別になくて──
そんなもんかなって思う。
だけど、そんなもんだよね。
転校生に親切にするのなんか当たり前だし、私もちょっと舞い上がってたし。
クラスメイト、いい友達。
そんな関係だって悪くないじゃん。
だから、その日。
私と宮くんが「一緒に学食行こう」ってなったのだって本当にたまたまだった。
いつも一緒に食べてる子たちがその日は全員お弁当で、「じゃあ、何か買ってくるね」って言ったら、学食に向かう宮くんと一緒になった。
クラスメイトだし、別に普通。
それだけ。
午後の授業のこととか、なんとなく話して、なんとなく歩いてただけ。
だけど、
「やっぱ一緒におるやん。」
一階まで降りたところで、「宮侑」に会った。
クラスが違うから、あれ以来話したことはない。
ときどき見に行くバレー部の練習では確かにキャーキャー言われていて、周りの話では全国屈指のセッターとからしく人気があるのは当然ということらしい。
だけど、私は苦手。
最初の時の印象があるし、
「なぁ、治。やっぱり付き合っとるんちゃうん?」
こういうトコ──私はヤダ。
「女の子たちが噂しとったで。治がクラスの子と付き合っとるって。」
ヤダ。
だって、言われたくないし、聞きたくない。
宮くんのこと、本当はちょっといいなって思ってる。
だけど、友達でもいいやって思ったりもする。
自分でだって、よくわかってない。
宮くんがどう思ってるのかだって、わからない。
優しくされてる気がすることもある。
だけど、やっぱりただのクラスメイトで、関心なんて持たれてないって気もする。
わからない、わからないことばっかりで。
だから、それを他のひとに言われるのって──ヤダ。
それなのに、
「別に隠さんでええやん。なあ?」
何も言わない宮くんを通り越して、今度は私を見る「宮侑」の視線。
のぞき込まれて、なぜだか頬が熱くなった。
「別になんでもないって言うたやろ。」
その時、聞こえた言葉。
宮くんの、声だ。
「ただのクラスメイトやし。」
──だよね。
「ただの」クラスメイト。
知ってた。
うん、知ってたよ。
だけど、あれ?
なんかちょっと、なんで……ズキリ、胸が痛い。
「そうなん?」
そうだよ、って私も言えばよかった。
だけど、言えなくて。
「残念やったね。」
ぽん、と頭に置かれた手が、「宮侑」のだってわかったけど、それを払いのけたりできなかった。
「なに、泣いとるん?」
泣いてない、だけど声が出てこない。
「可哀想になあ、治も案外冷たいな。」
構わないでよって言いたかったけど、やっぱり何も言えなくて。
「そしたら俺が慰めたってもええよ。ちょっとくらいなら付き合うてもかまへんし。」
何言ってんのって、今度こそ何か言わなきゃって思って顔をあげた私の──
「……ッ!」
口唇に触れた、柔らかい感触。
「な、なにす……ッ!」
「宮侑」にキスされたんだって気づいたと同時、周囲のざわめきが大きくなる。
「な、それじゃ、昼一緒に行こか。」
それを面白がるみたいに、握られた手。
「やめてよ……ッ!」
「ええやん、ほんまは嬉しいんちゃう?」
「そんなワケないじゃん!」
「だったらなんで、そんな顔しとるん。」
(そんな顔って……!)
どんな顔してるかなんて、わかんない。
悔しい、恥ずかしい、むかつくし、本当ヤダ。
だけど、
だから──
気づいたら、言っていた。
「私ッ、地元に彼氏いるから……!」
ああ、こんなのって──本当にバカだ。
「なんや、そうなんか。彼氏おるのに、治のことも狙っとったん?あんたって見た目によらず……性悪やね。」
最悪、最悪、サイアク、もう本当最悪。
周囲の声が大きくなる。
指を指して何か言ってる子がいる。
笑ってる人も、怒ったみたいに文句を言ってる人もいる。
そして、
「あ……。」
喧噪を避けるみたいに、その場に背を向けた宮くんに──
今更みたいにあふれ出した涙。
気がついたら足が勝手に動いて、駆けだしていた。
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