□星なきよるに思うこと 2
学校にはなんとかたどり着いたけど、とにかくヘンな気分。
緊張してるのか、むかついてるのか、不安なのかもうよくわかんない──!
混乱しすぎて「大丈夫か」って担任の先生に聞かれた。
「は、はじめての転校で……。」
なんて答えはしたけど、やっぱり気持ちは落ち着かなくて。
それで──
教室に入ってしばらく、私はますます混乱することになった。
だって!
だってだってだって!
「それじゃあ、三日月さんの席は一番後ろね。」
って、マジすか。
いやいや、ウソでしょ。
だってこんなの信じられない……!
転校初日の挨拶を終えた教室、先生に指示された席。
その横に、横に!
(な、んで……!)
朝の通学路で、盛大に憎まれ口を叩いたその人が──座ってた!
こんなのもう完全に頭がついてかない。
むかつくし、緊張するし、でもやっぱむかつくし!
どうしよう、いや、どうしてくれよう。
この自意識過剰男め!
私、転校生なんだからね!
別にアプローチとかしてないからね!
ねぇ、今わかったでしょ?なんとか言ったらどうなの?
教壇を向いたままで、隣の席に念を送る。
それから、チラ──
横目で見てみるけど、まるで反応なし。
頬杖をついたままで教壇を眺める横顔がそこにあるだけ。
ちょっと!
あんな態度とっておいて、今度は無視なわけ?
まるで私のことなんて見たことありませんって態度の彼に、今度ははっきりと視線を向けた。
すると、
「なに?」
見返した視線。
「!」
まだとぼける気?
てかなにその演技派ぶり!
特別な感情など何もない、向けられた視線には謝罪の色もない代わりに、今朝のあざけりもからかうような様子も一切感じ取れない。
あれ?
怒り一色の脳内に、わずかな違和感。
なんだろ、コレ。
なんかヘンな感じ。
ますます頭が混乱する。
そう思った時、
「移動教室。」
「え?」
「一限、移動やけど行かんでええの?」
「え!」
固まったままの私にかけられた声。
周囲を見れば、みんな続々と教室を出ていくところで──隣の席の彼も教科書を手に立ち上がっている。
「わ、ヤバ。えっと、一限……。」
「……化学。」
「化学!」
そうでしたそうでした。
一限から化学とか苦手だしヤダなって思ってたんだった。
「ヤバ、行かなきゃ!」
「ノート、忘れとるんちゃう?」
「あ、ノート!」
って、あれ?
ねぇ、コレ。
ますます違和感じゃない?
今朝の態度と違うじゃん。
あんなさ、初対面なのにムカムカするようなこと言ってきたクセにさ、なんだか今度は親切っぽいっていうか──
「あの、」
だけど、思考はまた中断。
「ありがとう」と言おうとした背中は、あっという間に教室の向こう。
慌てて追いかけて、だけど追いつかないように速度を下げた。
だって、何を話したらいいのかわからない。
今朝のあれ、どういう意味?
ていうか、本当はどんな人?
ああ、それに──名前もまだ知らないや。
大きな背中。
今朝見たのと同じ、背の高い後ろ姿。
そこから目が──離せなかった。
そう、
こっちが私とクラスメイトの宮くん──「治」の方の宮くんとの出会い。
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