□星なきよるに思うこと 1
人生ではじめての転校が高2ってどうなんだろう。
幾度かの単身赴任の後、「大事な人事だから着いてきてほしい」ってパパがママに頭を下げたんだって聞いた時は、「なにげにいい話じゃん」って思ったけど──聞くと見るとじゃ大違いっていうか。
中高は一貫校だったし、来年は受験だってある。
「大学は東京に戻って一人暮らししていい」ってパパが言うから、「だったらいいよ」なんて言ってしまったけど、やっぱり不安だ。
転入試験、新しい制服、新しい教科書、それに友達だっていない。
アプリの中にある東京の友達とのトークルームだけが唯一のお守り、だからって呼んでも来てくれないし、会いにもいけない。
はじめての街。
東京からは遠く離れた街。
着慣れない制服でスタートラインに立った私の胸は、ハッキリ言って期待より不安の方が何十倍も大きかった。
「ヤバ、どっちだっけ。」
駅まで10分、電車で15分、それから学校まで歩いて15分。
「送ってこうか」とママに言われたけど、断った。
ママに着いてきてもらうなんて恥ずかしいし、試験で一回行ってるから大丈夫。
そう思ったハズなんだけど──
かなり早く家を出たせいか、同じ制服の学生は見当たらない。
初日だから職員室に寄らなきゃだし、緊張するのは間違いないからとりあえず学校についてからちょっとは時間ほしい。
そう思ったのが……裏目に出たかもしれない。
「えと、」
落ち着け私!
この世には地図という素晴らしいものがあるじゃないか!
そうそう、スマホさえあればナビだってばっちり、だから慌てる必要なんてない……!
そう思いながらスマホの画面をスワイプする。
い な り ざ き こ う こ う
「ナビ開始、と。」
緊張なのか不安なのか、予想外のハプニングのせいなのか、心臓はバクバク鳴りっぱなしだ。
画面を見つめながら歩きはじめる。
駅前を大通りに向かって左折、それからまっすぐ行って、3つ目の角を右折──えっと、道は渡っちゃった方がいいのかな。
地図を縮小して、拡大して、また縮小。
そんな風にして歩いていた矢先だった。
「わッ、ぶ!」
次の角を右折だぞと思ったその手前、
「ご、ごめんなさい!」
交差点で立ち止まった大きな人影。
それに気づいた時には遅かった。
リュックを背負った男の人の背中に、止まりきれずに鼻先がぶつかった。
「すみませんでした……!」
私が悪いのは明白で、だから頭を下げて、
だけど、
「ん──?」
振り返ったその顔に、ドキン!って、いやいや、なんだコレ。
「すみません、スマホ……見てて。」
うわ、格好いいじゃん!なんて思ってしまったことを10秒後に後悔することになるとも知らず、見とれた。
背が高い。
ジャージだけど、高校生だよね。
こういうのってちょっとマンガみたいじゃん。
なんて──
「ええよ。」
にっこりと微笑まれれば、つられてへらりと笑った。
「あ、ありがと、ございます。」
しかも関西弁とか!
ときめいた。
ぶっちゃけ、ときめいた。
だけど、その直後──
「えらいワザとらしいけどアプローチでもしてるつもりなん?ほんまうっとうしいわ。」
笑顔だけは満面に、告げられた辛辣な言葉。
え?は?
今、なんて言いました?
「ま、どうでもええけど。」
ハァ───────???!
これを最悪と呼ばずして、何を最悪と呼べばいいのか。
むかつくむかつくむかつく!
何それ!
ワザとなんてぶつかってないし!
ていうか、アンタなんて知らないし!
どんだけ自意識過剰なんだよッ!
あー、本当むかつく!
格好いいなんて思っちゃった自分が恥ずかしいよ!
それが、私と宮くんとの出会い。
宮くん──そう、「侑」の方の宮くんと私はとんでもなく最悪な形で出会ったのだ。
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