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□ハルジオン 2

インハイが終わってしばらく後だったと思う。

その頃の木兎さんは、不調で不調でどうしようもなくて、だけど一番落ち込んでるのは本人だったから俺はなんにも言えなかった。


『ッそ!あか─し!もう一本!』
部活の時間が終わっても、何本も何本も自主練でトスを上げた。

『くっそ、なんでだッ……!』
クロスとストレートの打ち分けができない。
大ぶりしてアウトになる。

『木兎さん、そろそろ……。』

『もう一本……!』
鬼気迫る雰囲気で何本もスパイクを打ち込む姿に、だけどいい加減オーバーワークだろってさすがに思って、


『ハイハイ、そこまで──。』
言い方を探す俺を遮ったのは、とっくに帰ったと思ってた先輩たちだった。


『木兎、いい加減帰るぞ─。』

『つーか、腹減ったしどっか寄ってこうぜ。』


『まだ……ッ、』

『ハイ、行きますよ〜。悪いな、赤葦。雀田と白福残ってくれっから、一緒に片付け頼むな。』
木葉さんと小見さんに両脇を抱えられて、半ば強制的に体育館から連れ出される木兎さんを見送って──

片付けの最中に、マネージャーの二人から教えてもらった。


木兎さんが、三日月さんと別れたんだってことを。



3年生たちがどんなやりとりをしたのか知らない。
けど、木兎さんは少しずつ調子を取り戻していって、グループの合宿が始まる7月の半ばにはすっかり元の頼りがいのあるスパイカーに戻っていた。

三日月さんを、体育館で見かけなくなった。
学園内ですれ違うことさえ、減っていた気がする。

木兎さんと別れたから。
三日月さんも木兎さんも、お互いを避けていたから。


感じていた違和感の正体がようやくわかったはずなのに、俺は──胸のモヤモヤを消せないでいる。


そんな自分に、苛立っていた。



「けどなぁ、赤葦くんよ。ちょっとは空気を読んでくれたまえよ。」
黒尾さんの言い方に、むかついたワケじゃない。
一番イヤなのは、自分に対してだ。


「三日月さんは、練習には来ませんよ。」
思いがけず刺々しい声が出て、そんな自分に驚いた。

黒尾さんが悪いんじゃない。
三日月さんのせいでもない。
木兎さんがいけないなんて思ってない。

でも、イヤだった。

三日月さんとのことから立ち直っていく木兎さんも、
まるで木兎さんを探すみたいに体育館を覗きに来た三日月さんも、
そんな三日月さんに軽口を叩く黒尾さんも、イヤだった。

何より、自分がイヤだった。


木葉さんたちから聞かされた話では、三日月さんと木兎さんが付き合っていたのは、2年に進級した頃かららしい。

梟谷学園では1年の間はすべての学生が合同クラス、2年からスポーツクラスと進学クラスに分かれることになっている。
三日月さんと木兎さんは1年の時のクラスメイトで、進学クラスの三日月さんとクラスが別々になった後に木兎さんから告白したんだと聞いていた。

三日月さんといる木兎さんはいつもどこか誇らしげで、それでいて普段と同じくらい抜けていたりもする。
そんな木兎さんを三日月さんはいつも笑って見ていて、時々部の先輩たちと一緒になってからかったりしている──それが、俺の知っている二人だ。

ずっとそうだった。
梟谷に入って、木兎さんにトスをあげるようになって、木兎さんたち先輩と親しくなって──木兎さんが主将に、俺が副主将になって……その間ずっとずっとそうだった。


木兎さんの隣にいる三日月さんが俺の知っている三日月さんで、
いつも木兎さんを通して三日月を見ていた。


それがなくなって、違和感しかなくて、
木兎さんの不調と同じくらい──気になって仕方なかった。


三日月さんは今、どうしてるのかなって。
あんなにも仲が良かったはずなのに別れてしまったなんて、何があったんだろうって。


こんなにも、
どうしてこんなにも気になるのかなんて、俺は知るべきじゃない。

俺が干渉していいことじゃないし、そんな資格ない。


部活の先輩の彼女、それだけの関係だった。
木兎さんと別れてしまえば、それもなくなる。

三日月さんは遠くて、どんどん遠くなって、顔を合わせることも声を聞くこともなくなって、ましてや俺が三日月さんと直接どうこうなんてありえない。


同じ学校の、1つ年上の先輩。
ただそれだけ。


当たり前のことなのに、それが──苦しい。

苦しいなんてどうかしてる。
間違ってる。

そう思うのに、止められない。
モヤモヤは消えてくれない。


──こんなことは良くないって、わかっているのに。


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