×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
■メリーメリーゴーランド

来るはずのないLINEのメッセージをずっと待ってる。


1つ上の学年の彼氏と喧嘩したのは、もう2週間前だ。

悪いとこは私にもあったと思う。
だけど、話し合うとかもできなくて、電話してもLINEしても無視。
勇気を出して3年生の教室まで行ったけど、それでも無視された。


「無視とか……。」
なんだよって、呟いてみるけど届くはずがない。
2週間も返事が来ないなら、つまり別れたってことなんだと思う。

でも、言ってほしかった。
ちゃんと「別れよう」って。
できれば一度くらい、話し合いとかしたかった。


『もう別れたいってこと?』
ってLINEしたのは、2日前。

それさえ返事ないなんて、ホント虚しくなる。


何これ、私どうしたらいいわけ。
もうこれっきりなの?
それとも、私から「別れよう」って言わなきゃダメなの?


友達に相談したら、「そんなん男が悪いじゃん、むかつく」って。

私もそう思うよ。
無視とかひどすぎるよ。

でもさ、「相手が悪いんだもん、ポイ!」ってそんな簡単にいかない。
好きだった気持ちは、簡単には消えない。


だから、

「はー、シンド。」
家に帰ればいいのに、足が動かなくて。
散々愚痴を聞いてもらった友達にこれ以上頼るのも怖くて、ただ放課後の教室の机に突っ伏してウダウダしてるだけ。

気がついたらグラウンドがもう賑やかで、「あー、部活始まったんだ」なんて思ってた。



「何してんだよ。」
頭の上から声が降ってきたのは、何度目かの鼻水をすすって涙が乾いたら今度こそ帰ろうと思い立った時だった。

「……!」
一瞬上げた顔を、慌てて伏せる。


「何してんの。」
聞かないでって思うのに、声の主は容赦ない。


そりゃそうだ、だって。
コイツ──二口堅治は性格と口の悪さなら天下一品なんだから。

もう2年間クラスメイトで、それに別に二口のことは嫌いってわけじゃない。
口は悪いけど性格は言うほどじゃないかなって思うし、顔がいいから多少のことはオマケして見られるような気もするし。

だけど、今話しかけられるのは嫌だ。


からかわれるの、今は辛い。


「おい、聞いてんのかよ。」
ホラね、またそういう言い方。

いつもならいいよ。
いつもなら言い返すくらいの元気、私にだってある。

でも、今は顔を見られたくない。
涙を拭いて、鼻水すすって、超みっともない顔してる。

顔だけはキレーな二口になんて絶対見られたくないし、何よりダサすぎる。



「返事くらいしろよ。」

「う、うう……。」
何か言わなきゃと息を吸ったら、変な音が出た。


「なんだよ、腹でも痛いのかよ。」
んなわけないじゃん!と言い返すほどの力はわいてこなくて、

「……ほっといて。」
ああ、声震えてる。
ダサ。


「ほっといてよ、二口。」
突っ伏したままで答えたら、


「フーン。」
今度は気のない一言が返ってきた。


それから、


ガタッ、
ガタガタガタ。

って、え?
なになに?

なんで、そこ座るの?


顔はあげてない。
だけど、二口が前の席に座ったのは気配でわかる。

わかるけど、理由がわかんない!


「ちょっと……。」
顔を上げられないままで、逃げ出したくても見張られていては逃げ出しようがなくて、

「ふ、二口。」

「なに?」


「何って!」
こっちの台詞だよ!って思いっきり叫びたい。
だけど、出てくるのはふにゃふにゃした声ばかりで、そんな自分がますます嫌になる。


「ぶ、部活いきなよ。」

「まぁな。」


「なんでソコいんの。」

「忘れモンしただけ。」


「じゃ、じゃあさ……。」
なにこれ、バカみたい。
机に突っ伏した私と──明らかに頭上に感じる視線。


もう行きなよって言おうとしたら、


「わ、ぶッ……!」
バサリと覆い被さった布。

突っ伏して真っ暗だった視界は、顔を上げても真っ暗になった。


「それ、」
椅子を引く音がする。


「面白そうだからみっともねー顔見てやろうと思ったけど、そんな待てねーし。」
くしゃりと布の上から、大きな手の触れる感触。


「ちょっと、髪……!」
ぐしゃぐしゃと布の上から頭を撫でられた感触に、「あ、これ制服の生地だ」って今更気づく。


だけど、

「でも、他のヤツに見られるのも癪だからな。」


な、に……。
なになになに……?!


「元に戻ったら体育館まで返しに来いよ。」

なんて、一言を残して遠ざかる足音。


「ッ、」
顔が、熱い。
頭がついていかない。

なんで二口が優しいの?
え、てかこれって優しいのかな?

からかってるだけ?


がらりと教室の引き戸が閉まる音がして、顔を上げる。


廊下に響く足音。

「鼻水つけんじゃねーぞ!クリーニング代請求すっからな!」
一瞬だけ止まった足音と、投げて寄越された大きな声。


鼻水とか言うな!
って言い返せそうなくらいには元気になれた──二口のおかけで。



だけど、ねぇ。
何コレ。

一人きりの教室で再び顔を上げれば、涙の引っ込んだ視界に大きなジャケットがなんだか眩しい。


やっぱ優しい気がする。
それで、二口が優しいなんてものすごく気持ち悪いって気がする。


だけどさ、
ねぇ、だけど。


「どうして……。」
どうして優しくしてくれるのって聞いたら、二口はどんな顔をするんだろうか。



体育館に上着を返しに行くなら、ちゃんと顔直していかなきゃって。
思いながら、高鳴る胸。


メイク直しにチークはいらなそうなくらい、ヤバイ──顔が熱いよ。


[back]