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■ルララ 6

最悪、サイアク、超最悪でサイテーだ。


驚いた顔で俺を見るゆいちゃんの表情が、頭にこびりついて離れなかった。
苦しくて、むかついて、混乱して。


(なんで、アイツと一緒にいたんだ……。)

(ゆいちゃん、俺のこと嫌いになったよな……。)

とか──。


知りたい、聞きたい、確かめたい。
LINEだって知ってるし、何より明日は学校。

だけど、聞けない。
ゆいちゃんの目を見るのが怖い。

嫌われたかもって思うのに、だけど確かめたくない。


(でもやっぱ……嫌われたよな。)

店の中で大声とか超みっともないし。
ウシワカに突っかかってさ、怖いとか思われたかも。


それに──

好きだって、バレたよね。


いいんだ、前から言ってたし。
ゆいちゃんだって知ってるじゃん。

好きとか可愛いとかいつも言ってるし……。


でも、こんなハズじゃなかったってやっぱり思う。
本気で告白するんだって思ってた。
冗談とかじゃなく、本気だよって。

それで、その時は──。


そんなのもう考えるだけ無駄だけど。




翌日、朝練終わりの部室から教室に向かうのをためらう俺に、岩ちゃんは何も言わなかった。
ていうか、昨日のことも言わない。

ウシワカにキレたことも、ゆいちゃんにイヤな思いさせちゃったことも、岩ちゃんは言わない。
いつもみたいに俺をいじって、だけど昨日のことには触れなくて、何ソレ!岩ちゃん男前!及川さん、好きになっちゃいそう!とか、心の中で一人でボケてみたりして。


「先行っていーよ、岩ちゃん。」

「おー。」
とか言いながら部室の壁に寄りかかる、今日だけは格好いい幼なじみ。


「授業始まっちゃうよ。」

「テメーも一緒だろうが。」
なんて言われたら、ちょっぴり鼻水出ちゃいそうじゃん。


「だね、行かなきゃ。」

「古文ダリィな。」

「俺、数学。」

「……それはさらにヤベェな。」

なんてさ、行きたくない口実探しにまで付き合ってくれる。


だけどサボリなんてそうそうできるわけなくて、結局予鈴が鳴ってから教室に駆け込むことになった。


(ゆいちゃん……。)

窓際にゆいちゃんの席がある。
ギリギリで飛び込んだ教室、見られてるかなんかわからないのに、やけに背中が緊張する。

左側を見ればゆいちゃんが見えるはずだけど、それができなくて肩が凝ってきた気がした。


1時間目が終わって、2時間目が終わって、いつも長く感じる数学の授業も、嫌いじゃないはずの世界史も、どっちもなかなか時間が過ぎなくて参った。


(昨日、ごめんね。アイツって昔っから苦手でさ!)

(ゆいちゃんなんで、アイツ知ってるの?ダメだよ、あんなむっつり男と仲良くしたら!)

頭の中でシュミレーション。
何度も何度も繰り返した。


(昨日、感じ悪かったよね。本当にごめん。)

軽い感じで言っちゃえばとか、ちゃんと謝ろうとか、色々考えた。


だけど、答えが出せなくて。
窓際の席が見れなくて、狭い机の上ばっか眺めてた。


それで、昼休みが過ぎて、午後の授業もやっと終わって──
ダッシュで体育館に行けば、とりあえず今日は終わり。


だけど、それでいいのか?

今日話さなくて、そしたら明日はどうする?
ゆいちゃんと一言もしゃべらなかった日なんて……もう何ヶ月もないのに。



「及川。」

下ばっかり眺めていたから、首が痛い。
聞こえたゆいちゃんの声に、ほとんど反射的に頭を上げると、


「部活、行かないの?」

(ああ、)

好きだなって、なんだか泣きたい気分。
や、泣かないけどね?男の子だからね?


「ん、行かないと。」
ヤバイ、岩ちゃんに怒られる!とかいつもなら自然に出てくる軽口が出てこない。


「あのさ、」
気まずい。

ゆいちゃんのしゃべり方もなんだかいつもと違って聞こえて、やっぱり気まずい。


「腰治ったっぽい。整骨院教えてくれてありがと。」

「あ、足!足は……大丈夫?!」

思わず出た大きな声に自分でも驚いて、


「ごめん、なんか。えっと、足もう大丈夫?」

「うん……。」
顔見なきゃって、いつもみたいに話さなきゃって思うのに。
それで、ええと……

あんだけシュミレーションしたのに、なんだよ!
クソ!

ちゃんとしろよ、俺!


叱咤して、めちゃめちゃ叱咤して、それで──目が合った。


「牛島くんもあそこ通ってるんだって。」
ドカンと硬いもので頭を殴られたみたいな感じがした。

「昨日、及川のこと聞いたよ。白鳥沢って強豪なんだね。」


「そっか。」
そっかってなんだよ!

だって何て言ったらいいのかわからない。

ゆいちゃんとウシワカが知り合いだった。
しかも、俺が通ってる整骨院で知り合ってた。

ウシワカが自分と同じトコ通ってたなんて知らなかったし、しかも俺が二人が知り合うきっかけを作っちゃったってこと?
だけど、それってつまりただの知り合いってこと?


「ゆいちゃん……!」

「え。あ、うん?」

落ちたのか上がったのかわからない。
頭の中はぐるぐるで、

「それって、あの店でウシワカと知り合ったってこと?」

「う、ウシワカ?」

「じゃあ、昨日はたまたま一緒にいただけ?」
ムカついてるのか、ほっとしたのか、もう本当わからない。


「え、ああ……そう、だね。時間カブったっていうか。」

俺はウシワカが嫌いだ。

ライバルだからってだけじゃない。
いつも自分が正解って顔で、堂々としてて悩みなんかないって感じで、アイツの前にいると自分を否定されたくないって勝手に必死な気持ちになって、そんな自分にまたイラつく。


だけど──
悔しいけど、アイツを認めてるっていうのも事実だ。

強い、折れない、迷わない。
アイツが最強のスパイカーで、チームの主柱な理由、それがわかる。


だからこそ、

(おまえにチャンスなんてあげないからな!)

ゆいちゃんと知り合ったからって仲良くなんてさせない。
アイツがゆいちゃんを好きになるチャンスなんてくれてやらない。

絶対に、絶対にゆいちゃんを渡さない。


だったら、俺はもう待てない。
待ってる余裕なんてない。

ウシワカがゆいちゃんを好きになるより前に、ゆいちゃんがウシワカのこと知るより前に、俺は──ゆいちゃんの心を掴まなきゃいけない。


だから──

「ゆいちゃん!」
俺は、ゆいちゃんが好きだよ。


「今度、大きな大会があるんだ。それ、見に来てよ。」

負けない。
バレーも、ゆいちゃんのことも。


「それで、ウシワカに、白鳥沢に勝ったら……俺と、デートしてください!」


ゆいちゃんの目が大きく見開かれる。
驚いたって顔だ。
だけど、困ってない……たぶん。

少なくとも、昨日とは違う。


だから、言ったんだ。

「今までみたく友達じゃなくて、彼氏候補として!ちゃんとデートして!そしたら、俺……ゆいちゃんが俺のこと好きになってくれるようにすごい頑張るから!」

俺を見てよ。
友達じゃなくてさ、ただのクラスメイトじゃなくて、ちゃんと俺を見て。


逃げない、待たない。
絶対に負けない。


気合いだけでどうにかなるなんてさ、思ってないけど。
だけど、もう決めたんだ。


「わかった……。」

ゆいちゃんのくれた答え。
たぶん俺のラストチャンス。


絶対に逃したくない!



体育館に向けて駆けだした足は、朝のけだるさが嘘みたいに軽かった。


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