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■ルララ 4

「で、なんなんだよ?!」

「えッ、なになに何が?」

思わず緩む口元を隠せずに振り向けば、「チッ」と岩ちゃんの舌打ち。


「別にいいわ、聞きたくねぇし。」

「待って!岩ちゃん、聞いて!そこは聞いとこう!聞いてください、岩ちゃん様!」

「なんなんだよ、テメーは。鬱陶しい。」
なーんてさ、何を言われようが全然平気!
今日の俺ってば、絶賛超ご機嫌中なんだからね。


「実はですね……!」
むふふと笑って耳打ちしたら、「ハァ?!」という声と共に盛大に顔を顰められた。

「それだけかよ?」

「へ?」
続いて哀れみの視線が注ぐ。

「いやいやいや、岩ちゃん!何言っちゃってんの?これ、すごい進展だからね!」

「……そうかよ。」
やっぱり呆れ顔の岩ちゃん。
だけど、ヘコたれる気になんてならない。

それくらい嬉しかったんだもんね!


今日は、ゆいちゃんに初めて俺のプロフィールを聞かれた記念日です。

『及川ってさぁ、背高いよね。やっぱバレーやってるからかな。』
そんな風に言われたのは、いつもの朝のデートコース。

『え、照れる!どうしたの、ゆいちゃん急に!』

『んーん、なんとなく……何センチくらいかなって。』
ってさ!
すごくない?!

勿論俺は大感激で、

『184.3センチ、体重は72.2キロで、誕生日は7月20です!ちなみに岩ちゃんは179センチだから、180ないんだよね。』
って張り切って答えたワケ。

『あ、うん。なんかありがとう……岩泉くんの身長まで。』
ゆいちゃんはなんだか複雑そうな顔してたけど、ここでまたカンゲキ。
そうなですよ、岩ちゃんは「岩泉くん」で俺は「及川」なんです。
前からそうだけどもね、改めて幸せ感じちゃったというか、ゆいちゃんとの距離を確認したというかね。


「いや。俺、三日月と同じクラスになったことねーかんな。」
だから呼び捨てされるわけがないなんて岩ちゃんは言うけど、そういうことはどうでもいいんです!

実際、ゆいちゃんは割と礼儀正しいというか、そういうのキッチリしてるタイプ。
だから呼び捨てにされちゃう俺は、ゆいちゃんとズバリ親しい間柄ってこと。
それを再確認。

「ちなみにゆいちゃんの誕生日はね、」

「それは誕生日とか祝えるようになってから言えよ。つーか、おまえ大概キモイな。」
まったく岩ちゃんてば、本当に口が悪い。
こんなイケメン捕まえてキモイなんて言うのは、岩ちゃんくらいのものですよ。


「えー、誕生日デートとか!考えただけでヤバイ。」

「はぁ、もういいわ。勝手に言っとけ。」
これみよがしにため息をついて、親友は俺の前をどんどん歩いていく。



「それよかさ、三日月って足大丈夫なのか?」
チラリと振り返った視線。

「え、岩ちゃん!ゆいちゃんの足見てたの、ヤラシイ!許せん!」とちょっと思ったけど、これは黙っておいた。
なぜって、ゆいちゃんの足……うん、怪我してるんだよね。

引退した吹奏楽部の楽器を運ぶのを手伝ってる時に、階段で転んだんだって言ってた。
それはそれは大きな湿布を貼って、その上にネットまでしてさ、見た瞬間こっちが青くなるくらい。

「あー、うん。打ち身だけだったらしいんだけど、でも足引きずってたら腰痛いって言っててさ。」
そんなやりとりがあって、実は俺のかかりつけの整骨院を紹介してあげたのが先週だった。

それでかな、ゆいちゃんがちょっと俺に興味もってくれたのって。
「足痛そうだからカバン持つよ」って言ったら断られちゃったけど、だけど整骨院はすごい良かったって感謝されたし。

及川さん頼りになるー、みたいな。
そう思ってくれてたりしたらいいな。

「大丈夫?」って送ったらラインに絵文字付きの返事。
来週も来るように先生に言われたっていうから心配したら、「ありがとう」って言ってくれた。
嬉しいよね。
なんかちょっとさ、気持ちが通じた気がするじゃん。

足が治ったらさ、快気祝いとか誘ってみようかな。
いつもの学校近くのスタバじゃなくてターミナル駅のカフェとか、ちょっとデートっぽいところもなんだか今ならいけそうな気がする。


高校3年も後半戦、本当はちょっと……焦ってたりもする。
最近のゆいちゃんはいつも参考書とにらめっこで、いかにも受験生って感じだ。

どこの大学行くのかな。
知りたいけど、「受かるかわかんないし」って教えてくれない。

俺は大学からのスカウトをいくつか貰ってて、多分ここに行くんだろうなってなんとなく決まってる。
近くの大学だといいな。
だけど遠くだって平気だ、遠距離だって俺はゆいちゃんのこと絶対大事にするよ。

付き合えてもいないくせにそう決意して、だけどやっぱりどうしたら付き合えるのかわかんなくて……焦る。


仲は良いと思う、絶対。
ゆいちゃんが呼び捨てにする相手って少ないし、あんな風に辛辣にツッコミを入れるのって俺だけだ。
だけど、デートに誘うと断られるのは毎度のことで、宿題を写させてもらったお礼のスタバが唯一二人きりの時間。

あれってデートに入るのかな?
多分、入ってないよな。

でも、二人で会ってるのってやっぱ俺だけだし……。


自信と不安が交錯する。

いっそ思いきって告白しちゃうとか?
ダメダメ、そんな思い出作りみたいなのって最悪だ。

好きだから、本当に。
彼女になってもらうだけじゃなくって、すごく大事にしたいって思うから。

欲しくて欲しくて、同じ分だけどうしていいのかわからなくて。
じりじりとした緊張感が、ふざけた会話の裏にいつもある。

ねぇ、俺じゃダメ?
俺さ、ゆいちゃんのこと絶対大事にするよ。
二人だったら楽しいし、いつだって笑わせてあげるって約束する。

だからお願い、こっちを向いてよ。


「あ、」

「え?」
先を歩いていた岩ちゃんの足が止まる。

「あ、新メニュー今日からかぁ。ゆいちゃんと気になるねって話してたんだよね。」
駅前のスタバに「新作」の文字。
期間限定のフレーバー。
シロップをかけたトッピングがおすすめだって書いてある。

宿題のお礼に行こうって、今度誘ってみよう。
ああ見えてゆいちゃんってミーハーだから、新作はいつもチェックしてるらしいんだよね。


なんてさ、楽しい想像が脳内いっぱいに広がった俺の頭を、ガツン───

って、岩ちゃんの言葉がぶっ叩いた。


「三日月じゃねぇ、アレ。」

「!」
店舗の奥に白いブレザー。
外に立てかけられたパラソルの影に隠れてよく見えないけど、それは間違いなくゆいちゃんだった。

しかもさ、最悪なことに……一緒にいる相手の性別は、多分男だ。


「あー、及川?」

「………。」
通り向こうのコーヒーショップに、視線が釘付けになる。

相手の顔はよく見えないけど、ゆいちゃんよりだいぶ背の高いシルエットが硝子の向こうに見える。
あんな身長の女の子なんていないし、だとしたら……

でも、

いや、まさか、

だけど、

だって、そんな……!


気が付いたら、駆けだしていた。

走って、信号の赤で一回止まって、青になるもどかしい時間も気持ちだけが急いた。
ようやく変わった信号機に苛立つ気持ちのままで一直線、踏み込んだ店内で───


最悪。

そんな言葉じゃ多分甘い。
史上最高に納得できない絵面が、そこに広がっていた。


「及川、待てって!」
追いかけてきた岩ちゃんに腕を掴まれるけど、視線は1ミリも動かない。
だって、それくらい信じられない。

意味わかんないよね。
想像さえしたことのなかった相手が、よりによってそこにいた。


「なんで、おまえがここにいるんだよ……?」

ようやく発した声は、地の底から這い上がってきたような暗いものだった。


大好き、大好きだよ!ゆいちゃん!

その大好きの正反対の男、俺の大ッ嫌いで一番叩きのめしたい相手。


「なんでおまえがゆいちゃんといるんだよ!」
自然、声が大きくなった。

苛立って、情けなくて、めちゃくちゃムカついて。
大好きと大嫌いがごちゃごちゃになって、マジで最悪な気分だ。


「答えろよ、牛島……!」


岩ちゃんに止められなかったら、俺はアイツに殴りかかってたかもしれない。

店から岩ちゃんに引っ張り出された後も、ゆいちゃんの驚いた瞳が頭から離れなかった。
嫌われた、きっと。
もうダメだ、何もかも。

最悪中の最悪。
最低界の最強。
これ以上ないくらい、情けない俺。


だけどさ、ゆいちゃんとアイツって……なんで知り合いだったんだ?


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