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■YES or NO

「あ、あああ旭さんは何歳ですか?!」
部活終わり。
よくもまだそんなに体力が残っているものだと見れば、部室に広げた雑誌を囲んで田中、西谷が賑やかに騒いでいる。

「え、何が……?」
田中に尋ねられて困ったように聞き返す旭の顔に、「嫌な予感」という文字が浮かんでいる。

「初体験です!!」
勢いよく西谷に雑誌を突きつけられ、旭の顔色が変わる。
青くなったと思ったら赤くなって……ぷぷ、なんか面白い。

同時に、

「初体験て!」と、首に突っ込んだTシャツをひと息に押し下げて日向が声を上げて。
いやいや、日向にはチョット早いんじゃないかー西谷ー。
旭も困ってるし、その辺にしといてやれよー。

なんて思うけど、声をかけないのは勿論わざとだ。
だって、面白いじゃん。


「おー、日向。おまえは当然まだだろーけどな、これ見ろ!これ!」

「えええ、平均17歳!」

「いや、ウソだろ。だって17って、おおお俺たち高2ってことじゃねぇか!」
田中が声を震わせる。

「けど、そう書いてあるし!」
と西谷の声。
どうやら、今ヤツらが読んでいるのは男性向けのファッション雑誌か何かで、そこに書かれた「初体験の平均年齢」とやらに一喜一憂しているらしい。

「だからって!それ、東京とかの平均だろ!」

「東京、はッ……そうか、東京!」

「おう、そうだ。安心しろ、日向!俺の周りのヤツ見てても、そんな進んでるヤツそうそういねぇって!」
いやいや、田中。
日向はともかくオマエまで……そんなに堂々と童貞宣言しなくってもさ。
(まぁ、そうだと思ったけど)

「で、旭さんは?!」
あー西谷は相変わらず旭には厳しいなぁ。

もう許してやれよと心の中で思うけど、声はかけない。
背を向けたままで着替えを続ける俺をきっと旭は恨みがましい目で見ていることだろう。


だけど、そろそろ……

「コラ!何騒いでるんだッ!!」

「う、わ!大地さん!すんません……!!」

予想通り。
俺が思った通りのタイミングで部室にやってきたのはバレー部主将。
厳しい父親役でもある大地だ。

部誌をもって先生に報告に行っていたからそろそろ戻ってくる時間だと思っていたけど、まさにピッタリの登場にちょっと笑った。


「ったく、おまえら騒いでないでさっさと帰れよ。」
大地の一声で大人しくなった悪ガキどもだけど、

「でも大地さん……。」
田中が鼻をすすると、

「ん?なんだ、どうした田中?」
大地ってば意外に優しいなーでもそれって墓穴じゃないかなー。

「大地さんの初体験は何歳ですかっ?!」

「は、ぁぁ───??!」

……やっぱり、始まった。
やれ、自分は女の子にモテないとか、潔子さんには全然相手にされないとか、どうやって女の子と仲良くなったらいいのかとか、どーたらこーたら……

「いい加減にしろ!」
大地が怒鳴ったところで、

「お先に失礼しまーす。」
ぎっと部室のドアの音。
俺と同じく我関せず組だった月島が山口とツレだって部室を出ていくところだ。

「待て、月島!おまえー、何歳か言うまで部室出ないルールだろ!」
噛みつく田中。

「は?意味わかんないです、田中さん。」

「ツツツ、ツッキー!もしかしてもう……?!」

「うるさい山口。」

ぷぷぷ……ますます面白い。
ということは、この辺で……

「か、影山!おまえは?!おまえ、この前クラスの女子が格好いいとか言ってんの聞いたぞ、コノヤロー!」

「……お疲れッス。」

「あ、待て!影山ぁぁ───!」
予想通りに日向と田中が影山に絡み出したところで、

「いーい加減にしろッ!!!」

ドスンと雷が落ちた。
大声を上げた大地にシンと静まりかえる部室。


それからはあっという間だ。
月島と山口、それに影山はさっさと帰ってしまって、他の連中も慌てて荷物をまとめて出て行く。

残ったのは、俺と大地二人だけ。

「さーて、俺も帰ろっかな。」
ぐっと伸びをして、「大地終わった?」と尋ねれば、振り返った相手もスポーツバッグを肩にかけるところだった。

「ああ、俺も帰る。」

「じゃ、行くべ。」

俺が先に部室を出て、施錠を済ませた大地と並んで歩く。
空は夕焼け。
あーすっかり夏の色だなーなんて校庭を横目に思った。


その時、

「で、スガは?」

「へ?」
なんのこと?と首を傾げた先、大地の顔が笑っている。

(嫌な予感……。)
今度は俺が思う番。

「教えろよ、スガ。」
なんてニヤつく主将の顔をアイツらにも見せてやりたい。
なんだかんだいって、結局大地だって普通の高3男子だ。

「お、噂をすれば三日月だ。」
茜色の通学路によく知った後ろ姿。

「俺は噂してないよ!」
慌てるけど、

「じゃあ、三日月に聞いてみるか。」

「ま、ちょ!ちょっと大地!」
そんなこと大地が女の子に聞くはずないのに、ますます慌てる。
それくらい、動揺してた。


「だって!」

「ん?」

「だって……大事にしたいじゃん。」
ヤバイ、俺。
絶対顔真っ赤だ。

くそー大地め、後で覚えてろ。


「あー、孝支と澤村くんだ!部活?おつかれぇー!」
後ろ姿が振り返って、大きく手を振った。

いつも一緒にいるはずなのに、なんだかめちゃくちゃ照れる。


付き合って何ヶ月目でOK?
どこまでしたら誘っていい?
ぶっちゃけさ、ゆいは経験あんのかな?

なんて、聞けない疑問がぐるぐるまわる。


本当は、ちょっと期待している今日この頃。
だけど、『今日、親いないんだ』って言い出せない意気地なしな俺に、眩しいくらいなゆいの笑顔。


なぁ、もし『今度ウチ来る?』って聞いたら……

ゆいの答えは───?


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