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■パズルな恋愛論 6

スマホの中に収まったたくさんの写真。
指先でスライドしてゴミ箱に放るのは、やっぱり少し躊躇われた。

楽しかったんだよな。
「好きです!」って言われて、「おー、じゃあ付き合おうぜ!」って答えて、毎日ラインして、電話して、んで写真もいっぱい撮って……。

可愛いって思ったし、いい子だなとも思った。
キスするとか抱き締めるとか、いちいち全部幸せな気がして、毎日浮かれてた。

けど───
俺は、彼女と撮った写真を全部、ゴミ箱に捨てた。
付き合ってからこっち、彼女の笑顔や二人の写真ばかりだったスマホのフォルダは、ほんの数秒ですっかり空になって……後には沈んだ気持ちだけが残った。

部活終わりの体育館前、約束はしてなかったはずなのに彼女がそこにいた。

『木兎先輩……。』
思い詰めた表情を見れば、何の話かはすぐにわかった。
いくら俺がバカだって───それくらいわかる。

だって、俺は……最近電話でもあんまり喋れてない。
ラインの返事だって遅くなってるって自覚してた。

可愛いと思うのに、気持ちがついていかない。
俺の頭の中は、彼女以外のことに占領されていて……だから、自分でも「ちゃんと」彼氏ができてないってことくらい自覚してた。

『ごめん。』
って言った俺に、彼女は大粒の涙を零した。
泣かせちまった!やべぇ!どうしよう!

───だけど、どうしようもできないことは……もうわかってた。


恋愛って、こんな風に終わるんだなって。
そう思ったら、やたらと胸が痛い。
俺が悪いのに、泣かせたのは俺なのに、だけど痛い。

もっと好きになれたらよかった。
もっとずっと大事にできたらよかった。
そう思うのに、やっぱり気持ちは戻ってこなくて、それが辛かった。

ごめん、って───そんな言葉じゃきっと足りない。
けど、それ以外の言葉は見付からない。

黒尾の言う通り……俺ってやっぱサイテーだな。
だって、俺───

ゆいのことが、好きなんだ。


「だからって、どーすんの。」
はぁ、とため息。

こんなのって俺らしくない。
ため息とかさ、似合わねーって自分でもわかってる。

けど、マジで、どーしていいのかわかんねぇし、だけどやたらとモヤモヤするし、全然気分が上がらない。
部活でも最近は失敗続きで、チームに迷惑をかけることが多い。

こんなんじゃダメだ!
って、気合いを入れ直すけど、また空回り。


ゆいのことが頭から離れない。
ちょっとした瞬間も、いつだってゆいのことを思い出す。

だけど、想うほど……前みたいに話せなくて、それがもどかしい。

ずっと友達だった。
幼なじみで、家だって近所で、親同士も仲良くて、それで……当たり前みたいに一緒にいたゆいが、遠い。
遠くて、苦しくて、手を伸ばして触れたくて仕方がない。


それなのに、俺がまっすぐ進めない理由。
ゆいが友達だからってだけじゃない。

赤葦のことが───気になる。

最近、ゆいと話してることをたまに見るんだ。
学年だって違うのになんでって思うと、黒尾の言葉がまた思い出される。

やっぱり、木葉たちの言う通りなんかな。
赤葦とゆいって、そういう感じ?
赤葦はゆいが好きなのか?
ゆいは?

だったら聞けばいーじゃん!
それは、俺の中の声。

けど、聞けない。
いつから、俺───こんなキャラになった?!


本当に、マジでわけわかんねぇ。
好きなのに、言えない。
言えないから、苦しい。
何度も何度も、同じところをぐるぐる空回り。

だって、ゆいは幼なじみで、親とかも全部知ってっし!

それに───
赤葦は、さ、

(俺がゆいのこと、好きだって言ったら……どうすんのかな?)



そんな俺に、降りかかった試練。
それは……


「来週から試験準備だから、部活休みー。」
朝練に行く前に、かあちゃんにそう言った日のことだ。

そしたら、困るって言うから「なんで」って聞いた。

「だって、月曜お友達と出かける約束なのよ。」
なんとかって俳優の舞台みて、そんで夕飯はレストランのコース料理を予約してるって。

「ちゃんと光太郎にも言ったじゃない。」

「マジか。」

「そうよ。アンタも返事したじゃない。」
ぶっちゃけ、全然覚えてねー。
けど、まぁいっかって思った。
部活がないと帰りが早いし、夕メシ食う時間まで間があるけど───でもまーテキトーに時間とか潰して、そんで買い食いすればいいじゃんって。

「ダメよ。」

「ほあ?」

「学校帰りに寄り道しようって、今考えてたでしょ!」

「なッ……!だって、メシないならしょうがねぇじゃん!」

「ダメ。アンタこの前も赤点ギリギリだったでしょ、ちゃんと帰って勉強しなさい!ゴハンは出かける前に用意しておくから。」
だって。

「……ふぇーい。」
それだけだって、思って───たのに、な。


「………ッ!」
当のその日になって、携帯に届いたかあちゃんからのメール。
どうしようって、ヤベェ!だって!

『三日月さんの奥さんがウチでどうぞと言って下さったので、お言葉に甘えることにしました。ついでにゆいちゃんに勉強教えてもらいなさい。』
「迷惑かけちゃダメよ」なんて、どっちが迷惑だっつーの!!

だって、俺!
今のままじゃゆいとメシなんて食えねーもん!



だけど、そんな日に限って放課後なんてあっという間だ。

「光太郎―。」

「お、おおおおお、おぅ!どうした、ゆい!」

「どうしたって。」
あからさまな呆れ顔。

「わぁってる!悪い!メシ、オバチャン!その……。」

「なんでカタコトなの。」

「………ッ!」
あ、笑った。
ヤベ、今マジでキュンてなった。
絶対なった。

つーか、俺……ダメだ。
すげーゆいのこと、好きなんじゃん!

心臓がバクバクいって、顔が熱くなってるのがわかる。
手を握れば汗ばんでて、それで、ゆいの顔がマトモに見れない。

こんなの───彼女といた時だって、経験ねーよ。


「まーいいや。帰ろうよ。」

「お、おおおお!そーだな!」

「んで、勉強―。」

「お、おお!」

「お母さんね、ケーキ買っとくって言ってた。」

「お、おおお……。」
ヤベ、マジで。
だって、なんか……うまく喋れん!


「ねぇ、聞いてる?」

「お、おう!」

「さっきからソレしか言ってない。」
って言うけどさ、ゆい。
俺が何考えてんのか言ったらさ、おまえ絶対ビックリするかんな。

心の中だけは、やたらと口がまわる。
けど、それが形になることはなくて、

無理矢理、心の奥に押し込んだ。


───はずだったんだ。



「あ、」
だから、その想いが口から出てしまったのは、まったくの事故としか言いようがなくて、

「赤葦くん。」
だけど、きっと避けようがなかった。

「そっちも帰り?」
廊下で赤葦に会った。
で、俺が話すより先に、ゆいが赤葦に話しかけた。

「あ、ハイ。三日月さんたちもですか?」
んで、笑ってた。

「うん。試験だもんね、お互い頑張ろー。」
赤葦とフツーに話して、笑うゆい。
別にヘンなことじゃないのに、なんでかムカムカした。
そんで、同じくらい焦ってた。

俺───やっぱりサイテーだって確信する。
赤葦がゆいと仲良くすんの見た途端ヤキモチ妬いて、ゆいが好きだから止めて欲しいとか、本当に嫌なヤツだと思う。
ずっと友達だったのに、赤葦とイイカンジかもって思った途端に「渡したくない」なんて、マジで……。


けど、

「おーい、どしたのー?」

「………。」

「何、もーヘコんでんの?まだ試験始まってないよ。」

「………。」
駅に向かって歩く道、項垂れた俺にゆいの声。

「コラー。落ち込むのは赤点取ってからでしょー!」
違うよ、ゆい。
違うんだ。

俺さ、おまえのことが好きなんだ。
だからさ、赤葦にヤキモチ妬いてんの。
取られたくねーって思ってんの。

おまえ、友達だしさ。
赤葦だって大事な後輩なのにさ、急にヤキモチとかサイテーだろ?


けど、俺は───

「俺、」

「え?」
かあちゃんさ、こんなのってマジで余計だよ。
それからさ、オバチャンごめんな。
俺、多分だけど今日メシ食いにいけない。

ケーキだって用意してくれてんのに、ホントごめん。


だけど、俺……多分限界。
ぶちゃけもうバクハツしそうだし、今吐き出さないとマジで頭おかしくなりそう。
だって、このままゆいとメシ食って勉強とか───ホント無理だし!


「ゆい、俺さ。」

「光太郎?」
梟谷から駅へと続く道には、似たような制服姿が歩いていた。
顔を上げた先にいくつもの背中が見える。

だけど、気が付けばぼんやりした景色の中でゆいだけがハッキリと浮かび上がって……俺を見返す視線にまた胸が締め付けられた。


「俺ッ……!」
言ってしまえば、失うかもしれない。
ゆいも、もしかしたら赤葦も。

こんなのってメチャクチャ身勝手なことなのかもしれねー。
けど、けど俺は───


「俺、おまえのこと好きなんだよ……ッ!」


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