■夏恋メモリアル
「あーっつい!」
「はーなんでクーラーないの、死ぬ……!」
夏の高校生はタイヘンだ。
暑いし蒸してるし、制服ダルイし。
───そして、今日も私はアイスを買いに行くのです。
定番はパピコ。
一緒に食べる人いないけど、パピコ。
分け合う人いないけど、パピコ。
いーんだもん、こんなに暑くて一本じゃ足りないし。
二本をパキッと真ん中で折って、吸い口に口を付ける。
チョコとコーヒーの真ん中、慣れ親しんだ味が口の中に広がる。
「はー、おいし!」
「てかアンタ、パピコ好きだねー。」
「うん、一番好きー。」
毎日うだるような暑さだけど、休み時間のパピコタイムは癒しの時間。
購買で買ったアイスを口にしながら教室へと戻る。
その時、
「あ、」
「お、」
すれ違ったトサカ頭。
見上げた私の視線と───パピコに向けられた彼の視線が交錯する。
うんそうだね、微妙にズレてるんだけどね。
「いーな、ソレ。」
「へへ−、いいでしょー。」
黒尾鉄朗、クラスメイトでバレー部の主将。
んでもって───最近ちょっと気になる相手。
だけど、
「一本くれよ。」
「えー。」
「暑くてたまんねぇんだもん、くれって。」
ヤツの狙いはやっぱりパピコで……でも、そんな強引なお強請りに逆らえないのも事実だったりする。
「もーしょうがないなぁ。」
パピコは2本で1つ。
だからコレも運命───やむなし、さらばパピコよ。
気になる人に食べてもらえるならパピコも嬉しいに違いない、なんて冗談めかして思いながら吸い口の切れていない一方を差しだした。
───のだけれど、
「ん、サンキュ。」
「え゛え゛ッ??!」
黒尾が取り上げたのは、私の……食べかけのパピコ。
「んー、うまい。つか冷てぇ。」
「く、くろ、尾……。」
潰れた吸い口からチョココーヒー味を吸い上げて、美味しいと笑う黒尾に思わず目が点。
だって、だってさ!
「なんだ?」
「や、えっと……あの、だから……。」
片手に残ったパピコ。
冷たい表面が水滴を滲ませて、手の平を伝う。
「早く食わねぇと溶けるぞ、ソレ。」
「あッ……!」
そう黒尾に言われて、私は慌ててアイスに視線を落とした。
「わ、柔らかくなってる!」
「そらそーだろ、早く食え。」
なんだろ、コレ。
早く食えってさ、私が買ったんじゃん!とか、
いやいやそれよりさっきのこと説明してよ!とか、いろいろ思うのに言葉にならない。
だって、だってだって……!
「なぁ、」
絶賛混乱中の頭に振ってきた声。
トサカ頭が笑う。
「今日さ、部活見に来いよ。」
「えっ!」
黒尾って笑うと詐欺師みたいだ───だけど、そんなところも……。
なんて、なんのもう!今日ってばドキドキしっぱなし!
全部黒尾のせいだ!
そう思うのに、
「んで、一緒に帰ろうぜ。」
「!」
「その時半分返すから、さ。」
ほとんどカラになったパピコの入れ物を振って笑って、それから黒尾は私に背を向けた。
「あ、つ……。」
気が付けば割り増しで上昇した熱が、額に汗を滲ませていた。
「やったじゃん。」
「何が!」
「まーたまた。」
なんて友達は笑うけど、ねぇ……今のってやっぱりそういうコト?
私、期待していいのかな?
すっかりドロドロに溶けたパピコはもうあんまり冷たくもなくて、ただただ甘いだけだった。
それでも残さずに食べきって、また汗を拭う。
この調子じゃ、放課後には暑くて身体が溶けきっちゃうよ。
もう、本当に……全部黒尾のせい!!
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