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■パズルな恋愛論 4

「木兎先輩っ!」
左腕が重い。

「木兎先輩!ココ、コスプレして写真撮れるって書いてあるよ!」
賑やかな文化祭の校舎。
さまよう俺。
そう、彷徨うこと亡霊のごとし……!


「ねぇ先輩、聞いてる?!」

「んが?!あああああ!わ、悪い!ちょッ、とボーッとしてたッ!」
俺の左腕に絡んだ手を引いて、むくれた顔が見上げていた。

「もー、ヒドイ!先輩、全然あたしの話聞いてない!」

「わ、わりぃ。ちょっと考え事っつーか、ホラ!試合!午後試合あるし緊張して!」
慌ててそう言えば、彼女の顔が笑顔になる。

「そっか。試合前だもん、緊張するよね!でも、あたし応援してるから!」
「見に行くから手を振ってね」なんて、嬉しいセリフ。
嬉しいはずだった。
昨日までの───いや、さっきまでの俺なら。


今日は高校最後の文化祭で、そんでもって俺には可愛い彼女がいて、その子と一緒にまわろうって約束して、だからめっちゃ楽しみにしてたハズだった。
試合だって全力でやる気だし、音駒のレシーブと対決だぜ!なんて張り切ってた。

だけど、

(赤葦とゆい……もしかして、付き合ってんのかな。)
いや、でも!そんなん聞いてねーし!
俺、赤葦とだいたい一緒にいるし、ゆいん家のオバチャンだってよく会うけどそんなん言ってなかったし、第一ゆいいつも通りだったじゃん!


赤葦とゆいが一緒にいた。
文化祭の日に待ち合わせしてた。
部のヤツらがイイカンジかもしんねーって言ってた。

そしたらなんかむかついて、それで黒尾に───サイテーって言われた。


「でも、お昼は一緒で食べれるでしょ?」
上目遣いに見上げる視線。

彼女ができて、すげー楽しいって思ってた。
ちょっと困ったみたいな眉毛が可愛いって思ってた。
おっぱいが大きいのが制服の上からもわかって、腕をぎゅってされると堪らなかった。
背が高いのが格好いいって言ってくれるのが嬉しくて、体育館で応援してくれる姿が誇らしかった。

それなのに、俺……

「あ、えっと……。」
俺、もしかしてちょっと困ってるのかもしんねぇ。

「悪い。昼メシ、音駒のヤツらと食うって言っちゃった……から。」

最低だ!
俺、やっぱり最低だ。
今の俺がサイテーってことくらい、黒尾に言わなくてもわかる!

約束なんかしてない。
昼メシは、彼女と食おうって思ってた。

だけど、俺は───赤葦とゆいのことが気になって、そしたら彼女のことがちょっと困って思えて、それで……ウソをついた。

「ゴメン。」
ああ、マジで。
サイテー、俺。

本気でサイテーだ。


この前の休みに行ったディズニーみたいには、今日は全然盛り上がらなかった。
なんとなく校舎の中を見て歩いて、どっかのクラスがやってる店でなんとなくお茶をした。
そんで、解散。

彼女のいない左側。
そのことにほっとして、同じだけモヤモヤした。
俺、マジでどーなってんの?!

音駒との約束なんて別にないけど、でも電話したら誰かつかまるかもって携帯を取り出した。
木葉か小見か猿杙か鷲尾か、それとも黒尾───スマホの画面をスクロール。


その時だ。

「あ!」
思わずデカイ声が出た。

「ッゆい!」
一人で廊下を歩くゆいを見つけて、気付いたら駆け寄っていた。

「光太郎。」
少し驚いた様子で、見上げる視線。

「あれ、バレー部は?一緒じゃないの?」
尋ねて、

「あ、そっか。今日は彼女と一緒か。」
俺が答える前に、一人納得したみたいにゆいが言う。

「え、あ……ちがッ!」

「え?」

「や、だから……俺、一人。」
慌てて否定する俺に、ゆいは「ふぅん」と小さく言って、

「そうなんだ。」

「お、おう。なんか、クラスの、ホラ……あるらしくて、さ。」
それで「彼女」の話は終わった。

ほっとした。
なんでかわかんねーけど、すげぇほっとした。
ウソついてんのにほっとするなんておかしいと思うのに、だけどなんでか安心した。


「あ、赤葦は?」
そう尋ねた声は、不自然に裏返ってしまった。
けど、気になって仕方ない。

「赤葦くん?」
顔が熱い。
なんで赤葦のこと聞くだけでこんなんなってんの?
自分でもよくわかんねー。

わかんねーけど、無茶苦茶緊張して、息が苦しくて、そんで心臓がバクバクいってた。


「さっきまで一緒だったけど、もう用事終わったから。」

「え、」
ドキンと心臓が跳ねて、

「実行委員の仕事、人繰り合わないって話したら手伝ってくれて───。」
その言葉を聞いた途端、ひどく安心した胸に空気が流れ込む。

「お、おお。そーなんだ。そっか、へー、赤葦がねー、ほー。」

なんだよ、アイツら!
イイカンジとか言いやがって!
全然違うじゃん!
赤葦、仕事手伝ってただけじゃん!

脅かすなよ!
あー、マジでビックリした!
つーか、よかった!

よかったって……アレ?


「……俺、なんでほっとしてんの?」

「はぁ?」
心の声が口から出ていた。
眉を寄せるゆいにハッとなって、慌てて首を振って誤魔化した。

「つーか!」

「え、うん?」
また、ドキドキする。
今日の俺───なんなんだ、すげー心臓が忙しい。


「メシ、食わねぇ?」
ゆいとメシ食うのなんて、今まで何回もしてきた。
子供の頃から何度も、高校入ってからだってしょっちゅう。
なのに、ただそれだけの言葉を言うのに、めっちゃドキドキした。

「いいけど、あんま時間ないよ。」

「いいって!俺も試合あるし!ちょっと早いけど、学食行こうぜ!」

「あ、私チーズオムライス食べたい。」
だけど、そうやって食堂に向かいながらゆいと話してたら、なんとなくいつも通りに戻ってきて、

「なぁなぁ、試合さ!ゆいも見に来るだろ?」
頼んだものを並べて腰かける頃には、さっきまでのおかしな感じは完全に消えていた。

「あー、そうだね。」

「なんだよ、来ねーのかよ。」

「行くけど、多分全部は見れないよ。」
オムライスをスプーンで掬って、ゆいが言う。

「マジで?けど、1ゲームくらい見れんだろ。つーかストレートで勝つから、2ゲーム見てけよ!」

「だから、時間あんまないんだってば。」

「じゃー、ソッコーで勝つ!」
思えば、こうやってゆいと学食に来るのは久しぶりだった。
前はこうやって、よく昼休みに来てたのに。

「やっぱオムライスも旨そうだなー。」

「あ、ちょっと!やめてよ、光太郎!」
横からスプーンを伸ばす俺を、ゆいが肘でガードして、

「いいじゃん。ゆいも俺のカレー食っていいし。あ、カツはダメだかんな。」

「いらないし。ってもー、わかったからちょっと待ってよ。」
だけど、結局譲ってくれる。
こんなやりとりも、1ヵ月ぶりだった。

たった1ヵ月が、すげー久しぶりに思える。
久しぶりで、楽しくて、なんだろう───嬉しくて仕方がない。



この気持ち。
イライラして、不安で。
ドキドキして、嬉しくて。

傍にいるとほっとする───この気持ち。
あっちに行ったりこっちに行ったり、忙しくて頭が疲れるのに、なんでか全部大事に思える。


1セットずつ取り合って、最後は俺のスパイクで勝負がついた。
最高に気持ちいい試合の後、

「どう思う?」
なんて、尋ねた相手がため息をついた。


「木兎。」
打ち上げしようぜって向かったファミレスのテーブル。
着替えた制服姿でため息をついて、黒尾が言った。

「おまえさ、ソレ誰かに言った?」

「え、黒尾が初めてだけど。」
なんで?って聞く前に、大きなため息がもう1つ。


「だったら絶対言うなよ。特にアイツとその子にはさ、絶対。」

「え!なんで!」
だって、それって───どういう意味だよ?!

「なんででも。つーか、後悔したくねぇなら俺の言うこと聞いとけ。」
黒尾が視線を向ける先で、音駒のセッターの孤爪と向き合って話している姿をじっと見る。

赤葦は、いつも通りの赤葦だった。
別に変わったところなんかない、俺の知ってる赤葦。
そう見える。


だけど、
黒尾の言葉が間違いなんかじゃなかったことに、俺は後で気付くことになる。

それでその時、俺は───


「俺、ゆいのこと……?」
俺は、本当に自分がサイテーなんだって思い知らされる。


ゆいは俺の幼なじみで、赤葦は俺のチームメイトで、どっちも俺の大事なモンだ。


それなのに!
それなのに、俺は……。


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