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■パズルな恋愛論 3

なんで?!
とか、思ってる俺は───やっぱりサイテーなんだろうか。



「盛り上がってんなー、梟谷の文化祭。」

「さすが私立だな。」

「そーだろそーだろ!まぁ、なんかテキトーに好きなもん食えよ。」
校門前から体育館までびっしりと並んだ屋台。
胸を張って案内するのは、今日の親善試合の相手───音駒高校のヤツらだ。

「え、マジで?木兎の奢り?ラッキー。」

「んなッ!ワケねーだろ!ちょ、黒尾……ッマジで払わないからね、俺!」
軽い足取りで屋台へと向かう音駒の主将の襟を掴むと「ブハハ」と笑う顔が冗談だと言って寄越した。

「つーか、木兎焦りすぎ。」

「やー、でも面白いわ。」
木葉や小見、猿杙にも笑われながら、音駒の連中を体育館へと案内する。

「試合午後からだし、テキトーにその辺見て来いよ。」
案内した倉庫に音駒の部員たちが荷物を下ろしたのを確認して、そう声をかける。

「え、何?木兎、案内とかねぇの?」
文化祭は土日の2日間で、バレー部の親善試合は土曜の午後から。
着替えたりアップの時間を入れても、まだ十分に余裕がある。

黒尾に尋ねられて、だけど思わず口元が緩んだ。

「やー、わっるいなー。ちょっと用事あってさ、俺!」
今日の予定なら、バッチシ決まってる。
試合の後は打ち上げの約束をしてるし、音駒とメシでも行こうと思ってるけど、その分午前中は用事がある。

「あー、ハイハイ。わかってっから、さっさと行けー。」

「え、何なに?」
シッシッと手の甲で俺を追い払う仕草をした小見に、音駒の夜久が身を乗り出して聞いた。

「あー、コイツさぁ、彼女出来てからこんなんばっか。ちょー浮かれてやがんの。」

「そうそう、俺たちが案内するから行こうぜ。」
請け合った木葉に、「えっ」と驚いた顔をして、夜久が目を見開いた。
ちょっとちょっと夜久くん、ソレ酷くない?!

「ゲッ、マジかよ。木兎のクセに彼女とか!」
黒尾はもっと酷い。
だけど、そんな言いぐさにへこたれる俺じゃない。

「まーな!」
胸を張ってそう言って、

「寂しい黒尾クンと一緒にしないでくれたまえよ。」
ワハハと笑って見せれば、黒尾と夜久が飛びついた。

「えー、マジ?つーか、写真ある?写真!」

「てか、これから彼女と一緒にまわんだろ。ショーカイしろ、紹介。」
悪くない悪くない。
こーゆーのって悪くない!
彼女と文化祭デートってのも楽しみだけど、こうやって冷やかされるのも気分がいい。

思わず鼻歌出ちゃうぜーと思った時だった。

「赤葦も一緒に行くだろ。」
騒がしいやりとりをいつもながらの冷めた目線で見ていた後輩。
赤葦に木葉が声をかけた。

「あ、いえ。俺も用事あるんで……午後から合流でいいですか?」
その時は別になんとも思わなかった。

「おー、いいけど。つーか、クラスの出し物とか?赤葦んトコ何やるんだっけ?」
木葉と同じように、俺も思った。
クラスの展示とかもだいたい当番制だし、だったら用事あるのも仕方ねーなって。

だけど、違ったんだ。

「校庭で露天出してますけど、今日は免除してもらったんです。それで、」
赤葦が言いかけた時、


「あッ、何もしかしてあの子?!」
体育館の入り口を見ながら、夜久が声を上げる。
一斉に集まる視線。

「え、マジか。かわいーじゃん、木兎の彼女!」
入り口に立った制服姿。
それを見て黒尾が言った。

だけど、そこにいたのは俺の彼女じゃなくて───


「三日月じゃん。」
木葉が呼んだ名前。

「どーした、三日月。あ、見回りか?大丈夫、対戦相手もちゃんと揃ってるし。」

お、おお!
そうだよな、そうだよそうだよ!
ゆいって実行委員だし、その仕事で来たに決まってんじゃん!

つーか、なんで焦ってんの、俺!
何ドキドキしてんの!

自分でも意味わかんねーのに、なんでか心臓がバクバクいって、なんか無駄に焦るっていうかソワソワするっていうか、本当に……なんだ?この気持ち。


「えー、なんだ。彼女じゃないのかよ。」

「でも、可愛いよな。木葉、あの子に一緒にまわろうって言って。」
体育館を横切るゆいに視線をくれたまま、黒尾が木葉の肩を抱き込んだ。
え、何?
そういうこと?ていうか、どういうこと?!

マジで焦る。
意味わかんねーけど、焦る。

黒尾がゆいのこと、可愛いとか言って、そんで一緒に文化祭まわろうとか言い出して、だけどゆいは俺の幼なじみだし、でも俺は用事があって───
ムカムカして、だけど意味がわかんなくてすげー混乱して、


だけど、

「三日月さん!」
そんな俺たちの輪から抜け出した───赤葦。

「すみません。俺、行きます。」
ぺこりと頭を下げた赤葦にガクゼン。
つーか、ガクゼンってどうやって書くんだろーな……って!オイオイオイオイ!

なんで……ッ?!


「え、何?赤葦の用事って三日月と約束してたってこと?」
と木葉。

「マジか。やるなー、赤葦。」
と小見。

「つーか、なんで木兎がヘコんでんの?」
と夜久(鋭い……!他校なのに!)。

だって!赤葦がゆいと約束してるなんて聞いてねーし!ていうか、ゆい、俺のこと見向きもしなかったし、いつもと違うっつーか、やっぱ聞いてねーっていうか、なんも知らねーし、ワケわかんねーし……って、だけど俺、やっぱりなんでショック受けてんだ?


「んだよ、木兎。赤葦取られて落ち込んでんのか。」
黒尾が笑う。

「ち、ちがッ……う、けど。」
けど、なんなのか自分でももーわからん。
なんかめっちゃぐるぐるする……!

「まぁさ、三日月は木兎の幼なじみだし赤葦に取られて焦るのはわかるけど、しょうがねーだろ?」

「え、」
猿杙に言われて、顔を上げた。
え、俺……やっぱゆい取られたとか思ってんのかな?
だけどさ、ゆいって別に俺の彼女とかじゃねーし……でも、やっぱなんか気にくわないっつーか、だって赤葦もゆいもそんなん言ってなかったし!

そうそう、だからなんかムカっとなっちまったんだって!
二人が何も言ってくれないからさ!なんかちょっとムッとしちゃった的な感じでさ!
と自分なりの出口を見つけたと思った。
それなのに、


「マジ?木兎、そんなことでヤキモチ妬いてんの?おまえ、案外サイテーだな。」

黒尾の発した一言。
それでまた、世界は真っ黒に塗りつぶされる。


「や、待てって!木兎、落ち込むな!」

「そーだぞ、こんなの猫の作戦だぞ!心理戦に呑まれんな!」
チームメイトの声が遠い。
遠くて、なんか……ヤベ、頭ぼーっとしてきた。


「だってよー、別に木兎がむかつく必要なくねぇ?赤葦が誰とどーしようが伝える義務なんてないし、つーか自分だって彼女いんだろ。」
黒尾の言葉だけが、ヤケに耳に付いた。

俺って、やっぱりサイテーなんだろうか。
赤葦が何も言ってくれなかったとか、ゆいだって教えてくれなかったとか、つーかなんで二人で約束してんのとか───消えてくれないモヤモヤ。

だけど、こんな風に思う俺って……


「……マジかよ。」

確かに、マジでサイテーなのかも。


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