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■約束 2

孝支からの連絡は───ない。


私から連絡すればいいんだってわかってるけど、それができない。
だって、私……何て言ったらいいの?

『試合見たよ』に続く言葉がわからない。
『頑張ったね』って言ったらいい?
それとも、『残念だったね』?
どれを言っても正解じゃない気がする。

孝支に嫌われそうで怖い。
孝支を傷つけちゃいそうで怖い。
怖い、すごく怖い。


ずっとモヤモヤして、だけどそこから抜け出す方法がわからなくて……気が付けば一週間、孝支と連絡を取らないまま時間が過ぎていた。

クラスは隣だし、ちょっとは見かけることもある。
だけど、声がかけられない。
できるだけ教室から出ないようにして、廊下に出る時は友達とピッタリくっついて歩いた。


このまま、気まずくなっちゃうのかな。
それって───別れるってこと……かな。

イヤだ、そんなの。
孝支が好きなのに、大好きなのに。

そう思うと授業中でも泣きたくなって、だけどやっぱり……どうしたらいいのかわからない。



そして、今日。

『ちょっとだけ話せる?』
携帯電話の中の短いメッセージ。
一週間ぶりに孝支から受け取ったそれをじっと見つめた。

『うん』
逃げられないって思って、それだけを返した。

『じゃあ、放課後そっち行くな』
って返ってきたメッセージに、不安が募る。

どうしよう。
『別れよう』って言われたら……死ぬ!

だけど、孝支がいろいろあった時に何も言えなかった私は多分彼女失格で。
だから、だけど……どうしよう、どうしよう。



「なんか久しぶりだな。」

「……だね。」
二人並んで廊下を歩く。
校舎脇の中庭、部活前の時間に二人でよく待ち合わせした場所に向かっているんだってすぐにわかったけど、隣を歩く孝支との間に出来た距離が……苦しい。

いつもよりほんのちょっと遠い孝支の肩。
たった30センチの距離なのに、それはひどく遠く感じられた。


「あの、さ。」
中庭のベンチで、先に口を開いたのは孝支の方だった。

「俺たち、ちょっと気まずいな。」
その言葉に、うっと思わず泣きそうになる。
思わず俯けば、隣に座る孝支が指先を握り締めるのが見えた。

私、このまま振られちゃうのかな。
そんなの……

「俺、格好悪かったよな。」

「えッ!」
振られたくない、ってそればっかり考えてた私に降ってきた言葉は、予想外のものだった。

「え、孝支……?」
顔を上げると、眉を下げた孝支が困ったようにこっちを見ていた。

「部活、さ。」
少し首を傾げて言いよどんで、それから孝支が言った。

「影山が入ってきてレギュラー外れたんだ、俺。」
部活という単語に予期はしていたけれど、言いにくそうに話す孝支に胸が詰まる。

「自分で、コーチに言った。影山の方が才能あるし経験も積んでる。勝つためなら、3年だからって気を遣わないでほしいって。」
初めて聞く話だった。

「そう、なんだ……。」
何か言わなきゃと思うのに、やっぱり言葉が出て来ない。
孝支が話してくれてるのに、私って本当に最低。
ずるくて、臆病で、最低だ。

そんな私なのに、孝支はもっと大切なことを教えてくれた。

「ゆいにも言わなきゃって思ったんだけど……格好悪いなって思ったらさ、なんか言えなかった。」
「それってもっと格好悪いよな」って言った孝支は笑っていて、それが、とても辛そうな笑顔で……

だけど、それを見ていたら───

「違うよ!」

ああ、そうだ。

「違う、そんなことない……!」
言うべき言葉。
伝えるべき気持ち、胸の内でぐるぐると彷徨っていた言葉が自然と形になって……口唇から溢れ出ていた。

「ゆい?」

「孝支、あのね!」

ごめん、孝支。
なんにも出来なくってごめん。
言ってあげられなくてごめん。

大事な言葉はちゃんと前からわかってたのに……迷ってばかりでごめん。


「孝支は格好いいよ。レギュラーじゃなくてもチームのこと支えてきたの知ってる。試合、見ててすごくわかった。青城との試合も、その前の試合も、コートの中にいる孝支も外で応援してる孝支も全部、全部格好いいよ!」

「……ゆい。」

「あたし、」
声が震えてしまって、だけど止めることができない。

「あたしの方こそ、ずっと連絡してなくてごめん。」
大好きな孝支。
私の自慢の彼氏。
優しくって男らしくて、誰よりも強いひと。

それを伝えればいい、それだけだったのに。


「孝支はあたしの自慢。一番大好きな人。格好よくて頼りになって、優しくって本当に自慢の彼氏だよ。」

だけど、だけどもし……
もしも孝支が疲れたり、悲しいことがあった時は、私だって支えたい。
孝支の支えになりたい。

ずっとずっと、一番近くで応援していたい……!


「ゆい、俺。」
すぐ近くに、孝支の視線。
少し色素の薄い優しい色の瞳がそこにある。

「俺もゆいが好きだよ。ゆいと一緒にいたいし、応援して欲しい。」

「うん、うん……!」
嬉しくって、あったかくって、最高に愛しくて、伸ばされた腕の中に飛び込んだ。
大好きな人の一番近く、何よりも大切な場所。


「ずっと傍にいてくれる?」

「うん。」
頷けば、髪に触れる優しい指先。

「これからも、応援してくれる?」

「うん。」

「ちょっとさ、情けないこと言う時もあるかもだけど……。」
そんな時は甘えて欲しいって言ったら孝支は笑って、「じゃあ、今ちゅーして」って小さな声で言った。


「ち、」

「うん、ちゅー。今、したい。」

「孝支、あの……。」

「ここはちょっと」と言う前に塞がれた口唇。

恥ずかしくて、だけと嬉しくて……甘い。
甘い甘いキス。


大好きだよ、孝支。
これからもずっと、大好き。

だから、
一番近くて孝支のこと、応援させてね。


それは、二人の約束。


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