×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
■パズルな恋愛論 1

「ヘイヘイ、赤葦──ッ!」

「なんですか。」

「昨日、彼女とディズニー行ったんだけどさ!写メ見る?!」
別にいいですと答えようとして、言い直す。
ここで見ないと言えばしょぼくれるのは確実で、最悪スネてしまったら手に負えない。

「……わかりました、見せてください。」

「おー!見せちゃる、見せちゃる!」

「はぁ、ありがとうございます。」

───最近はずっと、こんな感じだ。


木兎さんに彼女が出来たのは、1ヵ月ほど前。
相手は梟谷の2年で、クラスは違うが俺と同じ学年だ。

「なんだよ、木兎―。また彼女自慢かー。」

「うっぜ。でも見せろー。」
なんて、小見さんに木葉さん。
放課後の部活へと向かう廊下、部の面々がこうして木兎さんをからかうのも日常になってきていた。

「で?ディズニーの後、どうしたんだよ?!」

「ど、どどどどうって何がッ!」

「なーにとぼけてんだよ、この前キメるとか言ってたじゃん!」
スマホの中には、木兎さんと女の子の写真。
キャラクターグッズを頭につけて笑う写真がたくさん収められていて、いかにも楽しそうな様子が伝わってくる。

「教えろよー、彼女巨乳だしラッキーとか言ってたじゃん。」

「つーか、やっぱまだなんだ?!」

「うっせー、いいだろ!別に!」
顔の赤い木兎さん。
木葉さんの詰問にあって慌てるその顔は、だけどしっかり頬が緩んでいた。


部活が中心の生活とはいえ、別に男女交際が禁止されているわけじゃない。
他の部員にだって彼女がいる人はいたし、何も木兎さんだけじゃない。

だけど、なんとなく俺がノりきれない理由───


「あ、」
連れだって歩く廊下の先にその人の姿を見つけて、思わず声が出た。

「おっ、ゆいじゃん!どーした、まだ帰んねーの?」
同じく彼女の姿に気付いた木兎さんも声をかける。

「あー、うん。今日、実行委員会あって。文化祭の。」

「もうすぐだもんな、文化祭!」
俺が焦ることじゃない。
そんなこと、気をまわしたって仕方ない。
そう思うのに、やっぱり気になってしまう。

「んだよ。木兎浮かれすぎ。どーせ、彼女とまわろーとか思ってんだろ。」
ジャージのポケットに手を突っ込んで木葉さんが笑う。
予想した通りの展開に、意味もわからず痛む胸。

「アハハ。木葉も彼女作ればいいじゃん。けっこーモテんだしさ。」

「え、マジ?!木葉ってモテんの?」
そんな俺をよそに、今度は木兎さんが言い返して、

「まー、光太郎よりは?ね。」

「なにィ──ッ!」
三日月さんの言葉に、みんな笑った。


「あ、ヤバ。委員会始まる!じゃあね、光太郎。」

「おー、じゃあな!」
スマホの時計を確認して肩を跳ねると、三日月さんは手を振って廊下の奥へと足を向けた。
それに応えて、大きく手を振る木兎さん。

梟谷の生徒になって1年半。
何度も見てきた光景だが、最近はそれが少し違って見える。

木兎さんは気付いてない。
小見さんも、木葉さんも、他の先輩たちもきっと。
どうして俺だけが気が付いてしまったのか、その理由は───あまり知りたくはなかった。


「光太郎」、「ゆい」。
互いに名前で呼び合う二人は、小学校時代からの友人なのだという。
家が近所で、中学校も一緒、高校は木兎さんがスポーツ科、三日月さんは普通科だけど同じ梟谷。

所謂、幼なじみ。
クラスは違うけど、木兎さんは三日月さんとよく一緒にいた。

木兎さんが勉強を見てもらったり、一緒に昼ごはんを食べたり、三日月さんが部の応援に来たり。
───つい最近までは。

今は、木兎さんは昼は大抵彼女と一緒だし、休み時間も中庭なんかでよく話しているのを見かける。
部活にも木兎さんの彼女がよく顔を出すようになって、その分三日月さんを見かけなくなった。


それに気が付いたのと同時に、俺は知ってしまった。
こうしてたまにすれ違う三日月さんの視線が追いかけている相手。
多分、もっと前からそうだった。

幼なじみだから、仲のいい友達だから。
きっとそれだけじゃない。

三日月さんは、ずっと木兎さんを見てたんだってことに、俺は気付いてしまった。
気付いて、それで───いつの間にか胸の中に巣くってしまったモヤモヤ。
灰色の塊が、ずっと奥につかえている。


ロクに話したこともない相手なのに。
だけど、冗談を言って笑う顔が、「部活頑張ってね」なんて手を振る時の明るい声が、そして、木兎さんを追う少し伏し目がちな瞳が……頭から離れない。


木兎さんの幼なじみの3年生。
近いようで遠いその人が───どうしてだろう、気になって仕方がない。


この気持ちの正体を、俺は知ってしまっていいんだろうか。


[back]