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■,so I want

「ヤベ−、全然わからん。」

「どこらへんが?」

「いや、むしろどこがわかんねーのかがまずわんねーっていうか。」

「ふぅん……。」
教室の机にかじり付いて、問題集を凝視する様子がなんだか可笑しい。
だって、目の前にいる彼は、私が知る限り最も机と参考書の似合わない男。

「ダァァァ───ッ!無理だぁぁぁ!!」
沈黙すること暫く、頭を抱えて仰け反った大きな身体。

「もー、うるさい!」
髪を大きく逆立てた特徴的なヘアスタイル。
その脳天にチョップを入れてやれば、

「ッイテェ!」

「だから、うるさいってば。」

「……悪ィ。」
彼───木兎光太郎はシュンと背中を丸めてみせた。
縮こまってみたところで相変わらず大きな身体は、目の前にある机を小さく見せていた。

その机に、ため息を1つ。

「はぁ。」

「……ッゆい!」
前の席の椅子を彼の机に向けて腰掛けている私のため息に、ビクリと跳ね上がった肩。
まったくもう、ちょっと怒るとするごーなるんだから。

「お、怒った?」

「怒ってない。」

「ウソだ、怒ってんだろ。」

「だからー!」

「わ、悪ィ。」
この人、一応高校バレー界では全国屈指のエースなんですけどね。
190近い長身もバレーで鍛えた筋肉も、まぁ参考書の前では無力。
それは仕方ないとして、どうしてこうすぐ落ち込むかなぁ。

「落ち込むのは赤点取ってからにしようよ。とりあえず、わかんないトコ教えて。」

「お、おう。けど……。」
どこがわからないのかがわからないのだと再度言い募る木兎の手元を覗き込む。


「あー、コレ。」
バレーは一流でも勉強はからっきし。
そんな彼に呆れることもしばしばあるが……だからって、嫌いになったりはしない。

「この問題さ、構文を丸々覚えちゃえばいいんだよ。ホラ、ここに出てるヤツ。」

「あ、マジか!本当だ、まんまだな!」

「でしょ。木兎、暗記はそんなダメじゃないじゃん。」
基本けっこー素直だし、それに努力家、諦めるとかもしないし。

「そうかな?!そうかも!そうだよな!うん、ゆい、いいこと言った!」
何より、上がるのも超絶早い。
ていうか単純!

だけど、そんなところが───好きだったりもする。


同じクラスだったのは、1年の時だけ。
その後は、木兎はスポーツコース、私は進学コースでクラスもバラバラ。
別に付き合ってるとかじゃないし、フツーだったらとっくに口もきかなくなってたかもしれない。

だけど、木兎にはフツーとかそういうのはあんまり関係ないみたいで、

『おー、ゆい!次、体育か!いいな!』
とか、

『ヤベ−、辞書もってねー!貸して!』
とか、クラスが変わった後もちょくちょく話しかけてくれる。
今みたいにテスト期間もギリギリになって泣きついてくるのも、もう定番だった。


そんな木兎に───実は、ちょっと絆されてしまってたりする。
……のだけれど、それは私だけのヒミツだ。


「お、正解。やるじゃん。」

「だろー!さすが俺、最強!」

「やー、最強は言い過ぎ。」
こんな関係が楽しくて、だけど3年も半分が過ぎてしまった今は……ちょっと寂しく感じたりもする。

ずっと一緒になんていられない。
だって、付き合ってるワケじゃないし。
告白なんてする勇気もないし、木兎の気持ちなんてサッパリわかんない。

意気地なしな私の視界で、癖のある文字がなんとかかんとか英文を綴っていく。
やっぱり───こういうのって楽しいな。


「なぁ、」

「………。」
考え事をしていたから、呼びかけた声にすぐには気付かなかった。

「なぁ、って!ゆい!」

「え、あ!ゴメン、ちょっとぼーっとしてた!」
慌てて顔を上げれば、半ページを埋めた問題集を目の前にかざした木兎。

「コレ、半分できたぞ!合ってるか?」

「あ、うん。見せて。」
どこか誇らしげな様子が可笑しくて、だけどやっぱり嬉しくて、緩みそうになる口元を俯くことでなんとか隠す。


「どう?」

「う、ん……。」

「どうどう?」

「ちょっと待って。」
回答ページと照らし合わせながら、シャーペンで記入された文字を辿る。
その時だった。


「なぁ、」

「や、だからもうちょっと……。」
待ってよと言おうとした言葉は、木兎の声に遮られた。


「じゃなくて。なんつーかアレ……ホラ、テスト終わったさー、二人でどっか行かねぇ?」

「へ?」
二人、で?
どっかって……どこに?
ていうか───それって、どういう意味?


「や!だから!デートだよ、デートッ!」

「は、え……えええええッ?!」
な、なになになになになに……!で、デートって!
今、木兎!デートって言った?!

思わず上げた顔は……ヤバ、超アツイ。
耳までアツイ。
本当ヤバイ、だって……絶対、顔真っ赤だし!

そう思ったのだけれど───


「……ッ!」
目の前にあったのは、きっと……私と同じくらい真っ赤な顔。

「……木兎。」

「ッだから!」

「うん。」

「い、いーだろ、別に!つーかイヤだって言われたらヘコむけど、でも……。」
視線を逸らして、おまけに横を向いたまんまで、そんな風に言うから───


「う、れしい、よ。」
なんだか勇気付けられてしまった。

「!」

「ありがと、誘ってくれて。」

「マ、マジか!」

「うん、マジで。」
ようやく、重なった視線。


「ゆい、顔赤ぇ。」

「木兎も赤いよ。」

それから、顔を見合わせて笑った。


「マジかー!すげぇ!俺!やっぱ……!」

「最強―とかの前に、テストだけど。」

「!!!」

なんてね、ホラ───やっぱり楽しい。
木兎といるのが楽しい、もっとたくさん話してたいし、一緒にいたい。


「わぁってる!」

「じゃ、次のページ!」

ねぇ、テストが終わったら。
二人っきりで出かけたら───叶うのかな?

もっと一緒にいたいって気持ち。


ねぇ、もしかして。

私の気持ち、通じるのかな?


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