eins

港の見える大きな公園…

暗闇の中で外灯のみが辺りを照らすこの時間でも、多くの人がここを訪れ夜景を楽しむ。


フンフン〜♪フン〜♪♪…


その中を港から吹いてくる爽やかな風にあたりながら、犬を連れた少年がご機嫌に散歩していた。

マフラーに埋もれているが、色白で少し垂れた大きな目が印象的な可愛いらしい顔をしている。


遠目から見れば、ハニーブラウンの髪やほんわかした雰囲気があいまって、女の子に見えないこともない。

「シオン、走ろっか!」

隣で歩く大きな白い犬に尚哉が声をかけると、シオンがワンッ!と元気良く返事をして一緒に走り出した。



…―

「はぁ…っ…はぁ…シオンー、休憩」


いつものように公園を走って一周し、息を切らながら、水道でシオンに水をすくってやった。


ペチャペチャ…

シオンは、飲み終わるとありがとう…と言うように、尚哉を見上げる。


「よし…俺も飲むからちょっと待ってて」

お座りをするシオンを笑いながら撫でて、尚哉は自分も水を飲みはじめた。


ー…ミー…

シオンが不思議そうに首を傾げ、後ろを振り返る。


ミー…ーミー


何かを探すように忙しくあたりを見回しながら、クーンとシオンが小さく鳴いた。微かな音から何かを感じ取ったらしい。

困惑した顔をしていたシオンだが、意を決したようにワンッ!と一言吠えると勢いよく走り去った。

突然の大きな声にビクッ!と尚哉が身体を震わせる。滅多に吠えないシオンの声に驚いて尚哉は後ろを振り返った。

手にあったリードは消え、シオンも居ない。


「え…シオン!?!」


咄嗟に見渡すが、見つけたのはダッシュで消えていくシオンの後ろ姿だけだった。


「シオンッ!!」

焦って尚哉は叫ぶ。

突然の事に頭がついていかない。


小さい頃から一緒に育ってきた二人だが、今までこんなことはなかった。


どうしよう…!

尚哉は恐怖する。

この辺りは人通りも多い上、車の通りも激しく悲惨な事故が頭をよぎる。


尚哉はシオンが消えていった方に必死に走りだした。

シオン…シオンッ!

唯一の家族であるシオンがいなくなる恐怖で胸が張り裂けそうだった。






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