あたたかい、








※白竜の夢で書いた男装夢主設定。






今日は最悪だった。
朝起きたら低血圧で体調良くないのに、トイレに行ったらアレが始まってて、かなりブルーな気分だ。イライラしたり憂鬱な気分は、サッカーしていれば何処かにふっ飛んでしまうけど、めまいや吐き気、貧血はどうにもならない。その上、練習というか訓練では、すぐに息が切れる。本当に、最悪だ。

今日のメニューだけさっさと終わらせて、私は一人で森の中を歩いた。
こういう時に森を歩いていると、気持ちがとても穏やかになって落ち着く。それにこの森では、私が本来の姿でいても、誰にも知られずに済んだからだ。都合がいいことに森の周りに近寄る人間は一人もいない。だから私は、辛いことや体調が悪いとき、そして寂しい時は、いつものこの森まで歩いて来ていた。


「………」


跡をつけられていないか、近くに人の気配はないか。それを確認すると、ゆっくり森の奥の方へと歩いた。髪を下ろして、髪ゴムは手首につけて、そのまま進んだ。まだ昼過ぎなので、いつもならもう少し薄暗い森の中だが、今日は少しだけ明るく感じた。
森の奥の方に向かって少し歩くと、休憩するにはちょうどいい場所を見つけて、私はそこに腰を下ろした。優しい風が吹いて、何もないとわかっていても、そっちの方を見た。やっぱり森ばかりだった。


しばらくして眠気に負けた私は、その場で眠ってしまった。
午後からの訓練は、私には用意されていないが、あまり長時間姿を消すと、あそこでは大変なことになる。私が目を覚ましたときは、まだ明るかったが、あれからどれくらい時間が経過したのかはわからなかった。


「(しまった。あまりここにはいたれないんだった…)」


とても名残惜しい気持ちで森から急いで出て、ゴッドエデンの訓練施設に向かおうとした。
貧血だからゆっくりと立ち上がり、深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。それから自分の手首に通した髪ゴムを手にして、髪をひとつにまとめた。心地よい風が、また吹いた。私は来た道をゆっくり歩いて行った。


「(…そういえば、不思議な夢を見た気がする。)」


目が覚めたら、ほとんど忘れてしまったが、その夢はとても不思議だった。






憶えている所まで話すが、私はさっきまでいた森を歩いていた。


「君、一人?」


突然私の耳元で優しく囁くような声がした。私は驚いて身構えると、そこには一人の男の子が立っていた。恐らく、同じくらいの歳の子だから、ゴッドエデンにいる人間だと思う。


「! 誰?!」


私は、正体を知られる訳にはいかなかった。
私が女であることがゴッドエデンの人間に知られたら…きっと私はサッカーを取り上げられてしまうだろう。それはつまり、今までやってきたことが全て無駄になってしまうのだ。そんなのは、絶対に嫌だった。


「ボク?どうしてそんなに警戒しているの?」

「ゴッドエデンの施設の人間か?どのランクだ?」

「質問しているのはボクの方なんだけどなぁ…まあいいや。ボクはシュウ。この森の住人、って言えばいいかな…君は?」

「ミョウジナマエだ。」


警戒したまま私は、彼、シュウと会話を続けた。私が言い直して言うと、シュウは笑って話始めた。


「無理して男の子のフリをしなくてもいいよ。君のことは、結構前からこの森で見かけてた事があるから知っているよ。」

「………」

「大丈夫、誰にも言わないよ!君が困るようなことはしない、約束するよ」


彼は私が恐れていることを知っているのか、そう言うとまた優しく笑いかけてくれた。


「ありがとう…。」


何だか照れくさくなって、私は彼から顔をそらした。恥ずかしそうにしながら、それを隠すように歩こうとすると、手を掴まれた。


「ナマエ、そっちは危ないよ。それに今日はもう帰るんだ。」


私がシュウの方を振り返ると、「いいね?」と問いかけてきて、思わず頷いた。そのまま彼に連れられ、施設の近くまで歩いた。


「ありがとう、シュウ…」

「じゃあ、またね…」


彼がそう言ってまた笑うと、大きな風が吹いて、目を閉じた。そしてまた開くと、そこには誰もいなかった。そして、目が覚めた。




20120423執筆
20130528修正
20140617up

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