加速する闘い、交差する想い…。











彼に対して好きなのかと問われれば、好きだとは答えると思う。だが、それが恋人に対してのそれと同等かは不明だ。正直、この感情をどこの誰に向ければ正しいのか、そろそろ分からなくなってきた。


「ナマエ、荷物重そうだから手伝うよ」

「あ、ありがとう…」


それは、表面上は良い人を装っていた彼が、一応恋人同士ということになっている私に対して優しいからだ。普通なら、そんな事しないはずなのに。というより、フリをするならこんなことまでする必要はないのだ。口調は二人きりの時には戻るけど、やる事は二人きりの時も変わらない。それどことか、何だか甘やかされている様な気もする。


「どうかしたの?」

「え、あ…べ、別に何でもないよ。ちょっと考え事ー、あはは…」


皆と一緒にいるときは、いつもの通りお互い建前な性格で行動をしているけど、二人きりになると素顔になることは今までと変わらない。けど、彼のする行動は恋人のそれと全く同じ。別に皆といる時だけで恋人のフリなんて、それ以上は必要ではないのに。


「ねぇ、ちょっと聞きたい事があるんだけど」


そう言って二人きりになれる場所へ着くと、彼の方が先に声をかけてきた。


「で、聞きたい事ってなんだよ?」

「………どうして、二人きりの時も恋人同士のフリをするの?別に誰にも知られていないから、今まで通りで良いじゃない…。」

「お前はどう思ってんだよ。俺の事、嫌い?」

「いや、別に嫌いじゃない…と、思うけど…。」

「じゃあ恋人みたいな事するのが嫌?」

「そうじゃないけど、何かこう…甘やかされているというか、優しいな…とか思って。」


自分でも一体、何を言いたいのか分からないけど、要するに今までの彼からは想像していなかった面を見てしまって、思わず動揺しているということだ。私がそう伝えると、彼の表情が何か企んでいる様な黒い笑みにかわった。


「ナマエって時々鈍感だよなぁ…」


明らかに嫌な予感しかしなかった私は、彼から距離をとろうと一歩、足を動かそうとした瞬間に、壁と彼の間に挟まれた。


「好きでもない女にこんなことしねーよ」


離れようともがく中で、彼が耳元でそう囁くように言った。心臓が高鳴って、顔が熱くなる。どうしたらいいのか分からなくなって、その場で動かなくなった私に「可愛いな」と大人びて妙に熱っぽく言ってキスをしてきた。



20140110執筆
20140617up


.