そーじのおとまり騒動
1.楽しいごはんの時間です。
みんなで集まった夕餉どき。
今日の昼間は、どうやら永倉と一緒に遊んでいたらしいそーじが、肩車をされてやってきた。
その姿は泥だらけの擦り傷だらけ。
それだけで、どんな過ごし方をしていたかなど一目瞭然。
最初の頃は、注意したりもしたけれど。
『子供は元気なのが一番だろ、危険なことさえしなきゃ問題ねぇって』
こいつが大丈夫なように俺達がちゃんと見ててやればいい。
そう言って原田が庭遊びを認めてからは、洗濯物が倍に増えた。
でも、健康に育ってくれるならそれが一番。それは体があまり丈夫ではない総司の切実な願いでもあるから。
「またそんな泥だらけになって…」
総司は態とらしく溜め息を吐いてから、そーじの手や頬についた汚れを拭きとっていく。
用意しておいて正解だったな。
永倉と庭で遊んでいる。
聞いたときから予想していた通りの格好になっていたそーじの上着を脱がせ、代わりの着物を羽織らせる。本当はすぐにでも湯船に放り込みたいところだけれど、先ずはご飯を済ませてから。
「楽しかった?」
「あい!」
とにかくやんちゃで好奇心旺盛らしいそーじを外に連れて行くと、まるで水を得た魚のように走り出してしまうのだから仕方がない。
走ると言ってもまだ“よたよた”と云った感じで、うっかりすると隣を歩いているうちにそーじを抜き去ってしまう、そんな速度なのだけれど。
「はい。きれいになったよ」
よほど本日の遊びがお気に召したらしい。
総司に手を拭ってもらってから、「ご飯にしよう」の声を聞いたそーじは、ニコニコと永倉のもとへ戻っていった。胡座をかいた永倉の足の間へちょこんと納まった様子に、みんなの視線が集中する。
いつもならその役目を受ける原田は目を丸くし。
「何それー!しんぱっつぁんずりーよ!」
頬を膨らませた藤堂は、嫉妬を顕に抗議をした。
「おかずを分けてやる」作戦でそーじを釣ろうとした土方はあっけなく振られて肩を落とし、「己も今日が非番であったなら」と箸を握りしめ一人呟く斎藤は、どこか不穏な空気を漂わせている。
嫉妬の嵐もなんのその。
永倉は大口をあけて笑いながら、そーじの頭をがしがしと撫でた。
「俺とそーじは仲良しだもんな!」
「もんにゃぁ〜♪」
そんなに乱暴に撫でるなよ…と、誰もがあわあわと見つめるが、どうやらそーじはそれによって揺れる感覚が楽しいらしく、きゃっきゃと声をあげながら永倉の手に身をまかせている。
一応、何かあったときのために。
永倉と一緒のそーじの隣。
そこに席を移動させる総司を待ってから、いつもと違う雰囲気の中、夕餉の時間ははじまった。
**********手を出すべきか見守るべきか…。
まだ箸を操ることの出来ないそーじと、食べさせることに慣れていない永倉の組み合わせ。
ちょこんと乗った膝の上で楽しそうにご飯を食べている小さな姿は、微笑まし……くはあるのだけれど。
永倉の豪快な食べっぷりを真似しているらしい(?)そーじは、なんとも盛大な犬食い状態で―――結果、床と服にぼろぼろとこぼれ落ちているご飯粒たち。
頬のまわりにも付いたそれを、総司は横から指先で取ってやり、自らの口に含んだ。
そーじはその様子を不思議そうな目で見上げてから、
「おいちいね!!」
と、満面の笑みを浮かべて体全体で頷いた。
『やっぱり僕が食べさせてあげるからこっちにおいで』と、再び伸ばそうとした手を総司は止めた。
こぼしちゃ駄目でしょう。
あんまり急いで食べないの。
言いたいことは山ほどある、けれど。
けれど……
「ま、今日くらい自由に食べさせてやってもいいんじゃねぇか?」
どうしようと迷い箸をとめ、永倉の膝に座るそーじを見つめていた総司の肩に、原田の温かな手が置かれた。
「――左之さん、でも…」
「最近、箸うまく持てねぇって癇癪起こしてただろ。美味く食えてんなら…な?」
「そう、なんだよねぇ」
最近のそーじは自分で食べたがることが多くなったものの、正しく箸を持つことはまだ無理のようで。
楊枝のようにしか使えないから、一生懸命揃えた箸を握って、何かに刺すのが精一杯。取ったものがこぼれ落ちては涙目になる。そんなことの繰り返しで、食事のときに悲しそうな顔をすることもあったから――
「たまには息抜きも必要だって」
「はぁ…仕方ないか。服も変えたばかりなんだけどな」
「あとでまとめて洗ってやるよ」
「わー。さのさんやさしー」
「…の割には全く喜びが伝わってこねぇんだが」
「そう?気のせいだと思うけど」
今日は特別。
そーじの笑顔を優先で。
そんな会話を交わす二人の横で、誰よりも早く食べ終わった永倉とそーじの「おかわり」の声が部屋に響いた。
「しっかし。新八みたいな食い方真似すんなってのは、後でちゃんと言っておかねぇとな」
「……それは言えてる」
2へ続く。
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