ひじかたさんと!
多分孫のように思っている副長の図←その日、土方が抱えていた山積みの仕事は、本人も驚くほどの速さで順調に進んでいた。
この分なら前倒しで作業が出来そうだ。
一息いれるために外の空気でも…と、歩きだしてから間もなく。小さなそーじが一人、廊下をぺたぺたと歩いていく姿を発見した。
一人で何やってんだアイツは!
外には出ずとも、いついかなる危険が訪れるかわからない。害を及ぼす人間云々の話ではなく、階段や廊下の段差一つだって大きな事故に繋がるかもしれないのだから。焦った土方は走り、その姿を追いかけた。
そして見つけた子供はと言えば。
部屋の隅っこで一人、「あー」やら「うー」やら謎の唸り声を発し棚を見上げている。
「一人で何やってんだ、お前は」
突然後ろから聞こえた声に驚いたのか、傍からみてもわかるほどに身体をビクつかせたそーじの動きが一瞬にして固まった。恐る恐ると言った感じで振り向き――それから、土方の姿を確認すると嬉しそうに走りよってくる。
「あのねっ、あっこに…あえ、あれっ!」
土方は膝をつき、目線の高さを合せてから、その小さな体を受け止めた。
「あれ、あれ……じゃねぇだろが。総司たちはどうした。まさかずっと一人だったとかじゃねえよな?」
「う?」
「総司と原田だ。いねえのか?」
「ん。わゆいひと、めーってしにいった」
わゆいひと?
めーっ?
少し考えてから、そういえば今日は昼の巡察だったかと思い出す。正確に言うなら、悪い奴らを取り締まるだけの仕事じゃねぇんだけどなと思いつつも、そんな細かいことが小さな子供にわかる筈もないかと自己完結をして、続きを促す。
「で、お前は。まさか一人だったのか?」
「うぅん。へーくんあそんでくえた」
「平助か?でもお前一人じゃねえか、何処にいるんだ」
「へーくん?……あっちでねてう」
聞いた土方は大きな溜息を一つ吐き、がっくりと肩を落とした。
「………何してやがんだ、アイツは」
おそらく、非番のためにそーじの子守を頼まれた(買ってでた、が正解かもしれない)藤堂が、昼寝に付き合っているうちに寝てしまったということなのだろう。
小さなそーじの舌ったらずな返答でも、想像に難くないその光景。
「だからねっ、おうとんかけてきたの」
「…子守役が子守りされてんじゃねえか……ったく、仕方ねえ。丁度仕事が一段落ついたとこだ、俺と散歩でもするか」
「おさんぽ?」
「ああ、つっても此処ん中と庭までだけどな」
それでもいいか?
そう言って土方は、おそらく隊の誰もが目にしたことのないような優しげな微笑みを浮かべた。
「いくぅー!!」
言うや否や、抱っこをせがむようにピョンピョン飛び跳ねて両手を広げる小さな身体。応えた土方がその体を持ち上げると、そーじは何かを思い出したように「あっ!」と叫び、部屋の隅にある棚の方を指さした。
それは土方がこの部屋を訪れた時に、そーじが見上げていたもの。
「あっこ…あれ、あれあうの」
「何か入ってるのか?」
抱いたままその棚へ近寄ってみる。するとそーじは必死な様子で手を伸ばし、棚の最上段・右端の戸をぺちぺちと叩いた。
「ここっ!そーたんの!」
片手でそーじを抱いたまま土方は、その戸を開いて中を覗いた。中には小さな袋が1つ入っているのみ。
「これか?」
取り出して小さな手のひらに渡してやる。
「これ……ん〜っ!」
一生懸命に結ばれている紐をとこうとしているものの、解き方がわからないのだろう。太めの紐と同じくらいの小さな指先で、いい加減にあちこちを引っ張っては唸り声をあげ――きらきらと星のように輝いていた瞳は徐々に曇り、口もへの字に曲がっていく。
頑張る姿を応援しながら見守っていた土方だったが、どんどん絡まっていくだけの紐を見て、とうとう助け舟を出してやることにした。紐の先を探り出し、小さな指先へそれを握らせる。そんな風に二人で開いていった袋の中には、色とりどりの金平糖が転がっていた。
「なんだお前。そいつを探してたのか?」
嬉しそうにコクコクと頷きながら、そーじはその一粒を土方の口元へもっていく。
「あい!」
「……………」
満面の笑み。
唇にあたる小さな指先。
がしかし、金平糖のみを銜えるのは中々に難しそうで。どうしたもんか、と戸惑う土方の様子を見て、そーじは不思議そうに首を傾げた。
「………きやい?」
「あ、いや、そう言う訳じゃねぇ」
悲しそうに下がる眉に焦った土方は、意を決しその指先にかぶりついた。勿論、目的の物のみを持ってくることは不可能で、小さな指先も一緒に銜えることになってしまったのだが――
「たべられたーー!!」
指を食べられたとキャーキャー騒ぐその姿は、嫌がられるどころか楽しんでいる様にしか見えず。いまいち子供の思考を理解することが叶わない不器用な大人は、困惑と安堵を含んだ面持ちで笑うのだった。
「んじゃ…とりあえず、道場あたりから覗いてみるか」
「けいこすゆのっ?」
「稽古ってわけじゃねえが…」
「そーたんもけいこしたい」
「まだ早ぇだろ。こいつの袋がてめぇで開けられるようになってから、だな」
「むぅ〜」
そうして、美味しそうに金平糖を頬張る姿を見ながら、時折差し出される金平糖の甘さを味わいながら、土方はしばしの穏やかな時間を堪能したのだった―――
*****
【そして散歩後】
「さすがにゆっくりし過ぎちまったか?そろそろ平助も起きてんだろ」
「へーくんのこんぺとー、ない」
「全部食べちまったのか?まぁいいさ、お前のなんだしな。寝ちまった奴が悪いんだから気にするな」
屋敷内と庭を一回りした二人が戻ってきた時、出発地点となった部屋から響いてきたのは、巡察から戻ってきたらしい総司の叫び声だった。
「あーーーっ!僕の金平糖がない…っ!戻ってきたら食べようと思って隠してったのに!!」
「……………」
「けふっ」
さて、その後は――?
ご想像におまかせ★親が必死に隠してるもんて意外に子供はわかっているものですよね(笑)という妄想←