小説 | ナノ





雨の日の睦言

イチャイチャさせたかっただけ。微・破廉恥


しとしと、しとしと
静かに降り続ける雨の足音が
夜明け前の薄暗い部屋の中へ、空気を伝って訪れた。

その気配に反応した身体が、微かに瞼を震わせる。

じめじめとした空気は、未だ明けぬ梅雨の季節がその存在を主張しているかのようだ。


――総司、明日遊ぼうね。


浮上しかけた意識の片隅に、声が聞こえたような気がして、沖田は身じろいだ。


約束だからね。

また明日ね。

1人、2人…と子供達の影が、真っ赤な夕焼けの中へ消えていく。


――約束。


去っていく影に微笑んで手を振った。

腕を下ろしたのと同時に、

おとずれたのは覚醒――…



(…雨……?)


まどろみの中、

ぼんやりとした視界に映るのは、先程まで見ていた夕陽とは別の紅色。


どうやら抱き締められたまま眠ってしまったらしい。


原田の腕の中で目を覚ましたことに気付いた沖田は、昨夜の記憶を辿ってみた。
が、最後の方はどうにもあやふやなものしか残っておらず――全身の疲れと倦怠感から大方の察しはつくのだが…――思い起こす事は不可能だった。

じめりと纏わりつくような湿気と、かすかに聴こえる雫の音。


(……雨…、か。)


起き上がろうか と思いかけ、やめた。

どのみち今日は非番である。
珍しくも、二人揃って。

腕の中の温度は心地好く、なかなかに離れ難いのもあって。



そう言えば、と思う。

(左之さんより、早く起きたことってあんまりないな)

床を同じくする仲になり、両手でも足りないほどの朝を一緒に迎えた。にも関わらず、原田の寝顔を見た記憶がほとんどない。

まだ眠っている原田の顔を見つめ、意外と長い睫毛に気付いて。

そんな小さなことで鼓動が跳ねたことに驚き、また気恥ずかしくもあり、沖田はまばたきを繰り返した。


まじまじと見ているうちに、小さな欲が顔を出す。



触れたいな。



目を覚ましませんように、心の中で祈ってから、手を伸ばす。


頬にかかった髪をそっとはらって耳にかけ、動く気配がないのを確認してから、ほどけた髪を一握り。意外と長くさらりとした髪が指に馴染み、そのままくるくると絡めとって遊ぶ。

原田が起きる気配は、ない――


耳たぶ。

眉。

閉じられている目蓋。

すっと通った鼻筋を

順に指先でなぞっていき、


誘われるように唇へ、己のそれを重ねようとした瞬間。


「起きてたんですか」

その気配が、微笑った気がして声をかける。

「残念。待ってたんだけどな、待ちくたびれちまった」


何を――


沖田が口を開くよりも先に、肩を引き寄せられ口付けられる。

「ん…っ。……ふ…っぅ」

目覚めの挨拶、にしては深い接吻。
唇の間を押しのけて、遠慮なく入り込んできた舌が口内をまさぐり、理性を奪っていく。

「……ん、ちょっ、…と!左之さっ……」

これ以上は、まずい。
そう思ったところで、沖田を蕩かす熱が離れた。

「さっき、見てただろ?」
「……気付いてたんですか。
 いやらしいですよ、そう言うの」

「お前から、っての待ってたんだろうが。まあ、結局は待ちくたびれちまったんだけどな」

言って小さく笑った原田は、沖田の額にかかった髪を優しく掬い上げ、指先に巻きつけた。

まるで先刻の沖田の行動を真似るかのように。
頬が赤く染まるのを感じた沖田が、反対側に寝返りを打てば―――追うように、背後からきつく抱きしめられる。


「あめ、か」


耳元で原田が呟いた。

「ええ。お陰で子供達と遊ぶ約束が駄目になっちゃいました」

境内で鬼ごっこ。
約束も雨のせいで反古になってしまった。

「だから雨って嫌い。」

それを聞いた原田は、楽しそうな声色で異論を唱える。

「そうか?俺は、好きだけどな」

「そうなんですか?でも雨の日って――んんっ…」

あらわになっている首筋をきつく吸われる。

沖田を抱きしめている腕が、胸の飾りをかすめ臍のくぼみへと滑り込んだ。
確かな意志をもったその動きに、沖田の言葉は遮られる。

「好きだぜ、総司」
「―――なっ…に、急に」

耳元で囁かれるだけで、昂ぶるのに充分な効力をもつ、声。

原田の手は止まることなく、ゆっくりと脇腹に手を滑らせ上下に撫であげた。

「は…ぁっ…、やだ、それ」

もどかしさに身をくねらせる沖田を引き寄せ、密着を深める。
胸の突起を指で挟み込み、転がすように刺激すれば――口から漏れる甘い吐息。その色めいた声に触発され、原田の身体も素直に反応を返した。

触れ合う肌が、互いの体温の上昇を伝え合う。


耳朶を甘噛みしてから舌を滑り込ませ、中へ注ぎ込むように、

「雨んときゃあ――ガキ共にお前をとられなくって、すむからな」

囁かれる甘い睦言。

痺れるような感覚に、沖田はぐっと背をのけぞらせた。

「…ぁ……、え?」

振り返ろうとするのを遮るように行為が再開される。

「なんだかっ…、妬いてるみたい、ですよ。其れ」


子供達に左之さんが?まさか――


「妬いてんだよ…ったく。あいつらと一緒ん時の顔、鏡で見せてやりてぇよ」
「どんな顔してるって言うんですか」
「俺が妬いちまうくらいの顔だよ」
「そんなんじゃわからな…」

「いいから――もう、黙っとけ」




しとしとと、音もなく雨は降り続ける。




こんな日は淫らな誘惑にのって、唯一人にしか見せない姿で過ごすのも、きっといい。


外は雨。

妬いてくれる原田なんて、珍しいものが見れたから

(やっぱり僕も――雨の日は、嫌いじゃない…かもしれないです)


「総司……」

包んでくれる温かさと、身体の奥から沸いてくる快感に、沖田は目を閉じ

その身を委ねた。



二人でお休みなのに、子供達と遊びに行こうとしてる総司を、前の晩に足腰立たなくなるまで無茶な抱き方でもしてればいいなと思いますよ。書けたら書いてみたいけど80%無理な予感しかしない。
捧げもの現代原沖を雨テーマで書いたので、幕末原沖も雨テーマでやっておきたかっただけでした。まる



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