小説 | ナノ





時渡り 〜貴方を護りたい〜 2


「総司。具合はどうだ?」


翌日、何とか原田を助けられる時へ行けないかと思う沖田のもとを斎藤が訪れた。

「一君。いらっしゃい」

開けた障子から見える庭。

そこへ立つ斎藤に声をかけて、沖田は布団の上に起き上がった。

「無理はするな」

慌てて縁側に上がった斎藤に言われ、沖田は苦笑を禁じ得ない。

「これくらい、大丈夫だよ」

言えば斎藤は、やれやれといった風にため息を吐いた。

「あんたは、自分をないがしろにし過ぎる。もう少し自身を大切にしろ」

「ないがしろに・・してるかなあ?」

「している」

言い切って斎藤は厳しい目を沖田へ向ける。

「余り心配させないでくれ」

「・・ああ、うん。ごめん」


心配してなんて言ってないよ?


言いかけた戯言は、斎藤の余りに真摯な瞳の
前に消えた。

代わりに出たのは、素直な謝罪。

「謝らなくともいい」

少し、柔らかみを帯びる斎藤の瞳。

「でも、今日だって忙しいだろうに、こうして・・・」

「出稽古のついでだ。気にするな」

言って、斎藤が体裁悪そうにそっぽを向いた。

「・・・そう。あんたが、ついでだ。
出稽古に来ればあんたに会えるなどとは、決して考えなかった」

ぶつぶつと言う斎藤の頬に赤みが差している。

「ありがと、一君」

真面目な斎藤がこうして寄り道して見舞いに来てくれる。

それが嬉しくて沖田が言えば、呆けたように斎藤が見返した。

「どうかした?」

尋ねる沖田の怪訝な声に斎藤ははっと我に返る。

「・・・・いや。やはりあんたは・・」

言いかけて気づく。

まさか、邪気の無い笑顔が余りにきれいで可愛くて見惚れたと正直に言う訳にはいかない。

「・・僕が、なに?」

言いかけて止めた斎藤を促すけれど、一度止まった口は二度と開く様子は無く。

「まあ、いいけど」

沖田は苦笑して、庭を眺めた。

小ぢんまりとした庭は居心地が良くて、原田も気に入った様子だったと思い出す。


『戦が終わったら、こういう家に住むのもいいな』


いつだったか、そう言っていた原田。

「ねえ、一君。左之さん元気だよね?」

消炎と土埃の中で倒れた原田。


あれは現実では無い。


思いながら、沖田はその確証が欲しくなる。

「なにをいきなり・・。それが知りたいなら、さっさと元気になって屯所に戻る事だな。
そうすれば、嫌でも会える」

斎藤が浮かべる、少しだけ意地悪い笑み。

「元気に・・」

「ああ、そうだ。
空元気では無く、真から丈夫になって早く戻れ」

そう言って斎藤は、そっと沖田の手を取った。

「あんたを想うのは、原田さんだけじゃない。
みんな、あんたを待っている。
もちろん、この俺も。・・・総司」

斎藤の目に切なさが宿ったのは一瞬。

沖田の肩へ回りかけた己の手を叱咤するように握り締め、斎藤は邪念を振り切るように立ち上がった。


「また来る」

短く残したその言葉。

「うん。待ってるね」

小さく手を振る沖田に笑顔で応え、斎藤が静かに去って行く。

「・・・一君。あのとき、って一君は何処に居るんだろう」

寛永寺に居た原田は、見慣れない異国の服を着ていた。

そして、周りには新撰組の誰の姿も見えず。

「あの状態の左之さんを置いて行く人たちじゃないよね」

単身になったことで原田があの運命を辿るのだとしたら。

「・・・この僕が、助けられれば」

思う沖田の視界が不意に歪んだ。

「これは」

沖田の声に宿る喜び。

「どうか、左之さんを護れる時に」

願い、沖田は歪みへと自身を委ねた。












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