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時渡り 〜貴方を護りたい〜 序




寝ているしかない身体。

その開いた瞳が映すのは見慣れた天井。

日に日に悪化する体調を、誰より感じている自分自身。

護りたかったもの。

護れる筈だったものから、それが沖田を遠ざける。

耳に届く外の音。

季節は着実に移り変わり、時は流れて行く。

そして、己の病も進んで行く。

慣れた筈の悔しさにまた歯噛みして、沖田は胸を強く掴んだ。

「・・・左之さん」

その手が触れた、小さな絹の護り袋。

そこに入っているのは透明な水晶玉。

名を刻んであるが故、日に翳せば少し景色が歪んで見える。

「左之さん」

今はここに居ない、それの贈り主を思って沖田は深く瞳を閉じた。









『総司。これ』

それだけ言って差し出されたふたつの護り袋を、沖田は揶揄する言葉と共に受け取った。

『どうしたんですか?左之さんが神頼みなんて珍しい』

言えば、原田が意味深な笑顔を見せる。

『神頼みねえ。いいから見てみろ』

言われ、袋からその中身を出せば、それぞれから同じに見える水晶玉がひとつずつ出て来た。

『綺麗ですね』

思わず素直に賛美が出る。

それほどに純粋な美しさを放つ玉だった。

『気に入ったか?片方はお前のだ』

原田に言われ、沖田はふたつの玉を見比べた。

『これを、僕に?』

『ああ』

手にしたふたつの水晶玉。

それらを陽に透かした沖田は、何か文字が彫ってあることに気づいた。

『何ですか?えーと、左之・・こっちは、総司』

彫られているのはふたりの名前。

『つう訳で、こっちがお前でこっちが俺』

原田が自分のだと取ったのは、総司、とある方の玉。

『逆じゃないですか』

笑いながら沖田が交換しようとすれば。

『ばーか。こっちで正解だろうがよ』

そう言って原田が沖田の額へ水晶玉を当てた。

『へえ。じゃあ、僕の事は左之さんが護ってくれるんですね』

言いながら沖田が自分が持つ水晶玉を原田が持つそれに当てる。

『おう。何処に居ても飛んで行ってやるからな』

『じゃあ、左之さんの事は、僕が護ってあげ
ます』

『はは。期待してるぜ』







そう言って笑った原田は、もしかして予感していたのだろうか。

病篤くなった沖田の傍に居られなくなる日が来ることを。

護りたくとも、そう出来なくなる日の事を。

だからこそ、何処に居ても。


今、沖田は強くそう思う。





「左之、か」

布団に横たわったまま、水晶玉を目の前に翳してみる。

彫られた文字。

それは、あの日と同じように少し周りの景色を歪ませて・・・。

「え?」

見えた色に沖田は目を瞬いた。

慌てて水晶を外して辺りを見回す。

「・・今、見えたのって」


炎。

そして、土埃。

まるで、戦場のような。

「焦り過ぎて幻影まで見るようになっちゃったかな」

呟き、水晶をしまおうとして。

「・・・・っ」

目が眩むような衝撃を覚えた。

寝ているのに、身体が揺れる感覚。

今まで経験したことの無い発作が来るのかと身構えた沖田は、しかし周りの景色が歪んで
いるのを見た。

「・・・なに、これ」

現実のものとは思えない事象に目を見張る。

「一体、なにが・・」

起き上がろうにも、身体の自由が利かない。

「このまま、死ぬのかな」

そう思ったのを最後に、沖田の前から見慣れた景色が消えた。




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