小説 | ナノ





愉楽悦楽、そして快楽

そのとき僕は、
あなたのものになったのです。



[これは3度目の話]



散々愛を囁かれ、全身をぐずぐずに溶かされた。

触れられた箇所から広がる熱に、徐々に中から侵食されて。
余すとこなく唇で、舌で、喰らい尽くされた全身が火で焼かれたかのように、熱い。


まるで長い時間、砂漠の中を歩いていたみたい。
口の中がカラカラに乾いているのを感じて、堪らずに唇に舌を滑らせると、それを見た左之さんが同じように舌を這わてきた。
濡れた感触に夢中になってしゃぶり付いて――与えられた潤いを一気に飲み干す。


喉を上下させてから、ゆっくりと目を開けて、

至近距離でぶつかった視線での“合図”に、僕はもう一度瞼を下ろす。


重なりあった体にかかる重みが増して。
耳元で感じる、熱を孕んだ荒い呼吸。

求められているという実感が、狂暴なまでの熱さを僕に与える。

それこそ髪の毛一本から細胞の一片まで、僕を創る全てが沸騰するような感覚に……身体が喜びに震えるのが分かる。


こんな風に、感情だったり感覚だったり。
左之さんが与えてくれる色々なものを――僕は同じだけ返せているのかな。

左之さんにももっと伝わればいいのに。

そう願いながら鍛えられた広い背中へ腕をまわすと、こめかみに軽い口付けをされた。
僕のことなんて気にせずに、好きなようにしてくれて構わないのに。平気か――って。念を押すみたいに、耳元で囁かれるその声がひどく優しくて、なんだかとってもくすぐったい。まるで自分が繊細な硝子細工にでもなったみたい。

そう簡単には壊れたりしないから、大丈夫。
左之さんが与えてくれるものなら痛みだって全部嬉しいと思えるから、大丈夫。


言葉にする代わりに微笑んでみせた。




―――まず、
強く感じるのは、圧迫感。


入り込まれる瞬間の此れは、どうやっても慣れる気がしない。

どんなに長い時間をかけて解されても、甘い言葉で蕩かされても、きついものはきつい。
本来とは逆の目的で使うんだから、ある程度の覚悟はしていたけれど…。



初めて身体を繋げたときなんて、はっきり言って酷い有様だった。

我慢しようとしても、生理的な涙はどうしても溢れてしまったし。
全身は、熱い汗と冷たい汗がまざりあって、溺れたみたいにびしょ濡れで。

左之さんも―――僕が噛み付いた肩口には、くっきりと鮮やかな歯型が浮かんでいたし。しがみついた背が滑るのも、汗だけが理由じゃなかった。
すべてを終えて、布団に沈んだ後。
爪の間にこびり付く赤黒い存在に気付いて、真っ青になって謝った僕を、泣いた子供をあやすみたいにずっと抱きしめて、頭を撫でてくれたっけ。お前の方がきつかっただろ優しく出来なくてごめんなって、左之さんは言っていたけれど―――そんな心配はこれっぽっちも必要ないのに



痛みよりも苦しさよりも、
何よりも強く感じるのは……、充足感。

それだけは最初から、何一つ変わりない。


体が悲鳴を上げるほどの激しい苦痛はないけれど、どうしてもまだ呻き声が洩れそうになるのを、奥歯を噛んで何とか飲み込む。それから少しでも身体の力を抜こうと、口を開けて大きく息を吸い込んだ。

瞬間、見計らったように深く入り込んでくる、目眩がするほどの熱量。

まだ其れに慣れない身体が逃げてしまいそうになるのを、足を絡ませることでどうにか堪える。
拒みたいわけじゃないのに、そんな事で左之さんに気を遣わせるのは嫌だ。

左之さんの快楽の邪魔をするのは嫌だ。

息を止めないように必死に呼吸を繰り返せば、合わせるように突き上げられて、その度に――喉の奥から、自分の知らない聲が生まれた。

聞いたことのない音に羞恥で耳を塞ぎたかったけど、それが駄目なら口をふさいでしまいたかったけれど……
両の手のひらに左之さんの手のひらが重なって、そのまま指を絡めとられて、僕の願いは叶えられないかった。


聞こえるのは同じ速度で重なる吐息。

それが、だんだんと熱を帯びていくのが嬉しい。

初めての時よりも二度目、二度目よりも今日、左之さんが感じてくれるなら、それが僕にとっても一番気持ちのいいことだから。


正直なところ、繋がることで僕の体が得ることの出来る直接的な快楽というものは薄い。女じゃないんだから、それくらいで丁度いいと思っている。


けれど、伝わる汗や僕を呼ぶ声。

愛する人が、左之さんが――女の人じゃなくて、僕で感じてくれてるんだって云う事実が、体の奥に欠片となって散らばっている火種を刺激する……体よりもむしろ心が悦んで、深い快感を認識させた。



暫くのあいだ

海の上をただようような、穏やかな揺れに身をまかせる。

ともすれば焦点が合わなくなりそうな、ぶれる視界の中、必死に左之さんの瞳を捉えようと意識する。


僕を見て笑ってくれるその表情に、いつもの余裕は感じられない。

熱い吐息に時折交じる低い声の色っぽさがたまらなく好きで―――うっとり聞き入っているうちに、呼吸の間隔は徐々に狭まり、それに連動して―――…激しい波が押し寄せてきた。


歯をくいしばって備えた、次の瞬間。

ふわりと浮き上がったような心地がして、それから自分の身を襲った初めての感覚に、戸惑う。

爪先から頭の天辺までを走り抜けた軽い痺れに、頭の中が真っ白になった。

感じたことのない衝撃が怖くて思わず目を瞑ると、目蓋の裏でちかちかと光が点滅する。上昇する体温も跳ねる身体も、涙腺も呼吸もなにもかも、自分で制御することが不可能になる。


自分が別の生き物になったみたいだ。


心にはすでに取り返しの付かない病巣が宿っているというのに、体の内側からも作り変えられてしまったら、僕はどうなってしまうのか。


一寸待って、と静止の言葉を吐こうとしたけど、激しく揺さぶられるたびに思考は少しずつ奪われていって。ついには言語回路も機能停止、何を言えばいいのかも分からない。

左之さん、

左之さん。


さのさん。


かろうじて頭の中に残っているその言葉を、馬鹿の一つ覚えみたいに繰り返した。

あとはもう、与えられる甘美な時間にただ酔いしれただけ。




(目眩く快楽に溺れた僕は、
 この先を語る言葉を持っていない)

R-18前哨戦みたいな(笑)
これのR文を書こうと思ったんですが、どうしても心情書ききれないなと思ったので、じゃあ先にそっちを書ききってしまえ!って感じで。

「口ではツンだけど、心ではデレ」っていいと思います♪

どうせ書くなら1回目からじっくりさせたいけど、ドロドロHとか需要あるのかとwwwまぁ、そのうちに。出来れば←



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