始まりのはじまり
「左之さん、本当に行かねぇの?」
「悪ぃな。今日はやめとくよ」
「何だなんだ、最近付き合い悪いじゃねぇか」
本当にすまねぇ。
軽く手をあげ謝罪の意を示した俺は、
二人に背を向け“ある場所”へと向かった。
そこへ向かう時はいつも、
ついつい足早になってしまっていた気がする。
身体の奥にこもる劣情の所為だ。
熱を吐き出したくて仕方ない、それだけが全ての理由だった。
だけどそれは、少し前までのこと。
今はそれよりも、それ以上に―――
何よりも俺の心が、
“あいつ”を求めているからだ。
なぁ、総司。
伝えることでこの関係が終わってしまうのだとしても、俺は今日―――どうしてもお前に伝えたい。
** ** ** **始まりは、もう数ヶ月前にさかのぼる。
「左之さん、本当に行かねぇの?」
「悪ぃな。今日はやめとくよ」
「なんだよ左之、珍しいじゃねぇか」
その日の隊務の後、
いつものように新八から誘われた島原への誘いを断った。
新八が大袈裟に言うほど、珍しいことじゃねぇ。
ある仕事の後には、決まって……と言っていいくらい、俺は誘いを断るようにしていたからだ。
女は好きだ、女を抱くのも。
男とは違う柔らかな感触、あの小さくて細くて折れちまいそうな身体を抱いていると、庇護欲ってもんに駆られる。
だが、守ってやらなきゃなんねぇと思う一方で―――まるでこっちが守られているような、安寧に包まれるのもまた確かで。あぁこれが「母性」ってもんなのか…と、その度に納得したもんだ。
いつか惚れた女と、子供と―――所帯を持ってみてぇな。
小さくて穏やかで、されども俺達みたいなのにとっちゃ一番難しいかもしれない。そんな夢を、抱くようになったのはいつだったか。
そして、その頃からだった。
人を殺した――その後に、女を抱くことを嫌悪するようになったのは。
人の“生”を奪った俺が“命”を作り出そうとする、その矛盾。
他人の命を絶っておきながら、己の生の証を欲し、命を育みたいと願うその滑稽さ(気付いてしまえばまるで道化で、愚かな男だといっそ笑えた。)
それからと言うもの
命のやり取りをした足で、女を抱きに行ったことはない。
誘いを断った俺は、出掛けていく新八と平助の背中を見送り、屯所へと戻った。
がしかし、皮肉なことに
何をしたって気分は晴れねぇ。
死線をくぐり抜けた後の、極限に研ぎ澄まされた神経と、昂った身に宿る熱のせいで布団に入ったって寝付けやしねぇのが悲しい事実。
素直に熱を吐き出してしまいたいって即物的な欲求。
そんな自分が汚ねぇと思う、わずかながらに残る理性。
眠ってしまえと目を閉じて、結局眠れずに朝をむかえる。そんな夜にも、もう慣れたもんだ。
ただ、
“その日”はなんの気まぐれか――
夜空に浮かんだまんまるの月が、俺を外へと誘った。
どうせ眠れやしないのなら、酒を片手に月見と洒落込むのもいいんじゃないか。
寝巻き1枚で布団を抜け出した俺は、酒を片手に屯所の中庭へと足を運んだ。すると―――其処にいたのは意外な先客。
「あれ?左之さん。」
「総司。……何してんだ?」
同じような恰好で、無防備に縁側に寝転んでいた総司は、俺の登場が予想外だと言わんばかりに目を丸くしている。
「左之さんこそ。新八さんたちと出掛けたもんだとばかり思ってました」
「ん?あぁ……今日はちょっと、な」
理由が理由なだけに言葉を濁した俺を、特に気にした様子もなく、総司はゆっくりと身を起こす。
もう一歩、総司に寄ろうと伸ばした足の先に、無造作に転がっている空の徳利と盃を発見し、今度は俺が目を丸くすることになった。
「珍しいな、お前一人で飲んでたのか?」
そう言ってから、はたと気付く。
珍しいと口にしたものの、それはあくまで“いつも”のことで。
今更だが、こういった仕事の後に、総司と過ごしたことはない。
少し前までは俺も島原へ足を運んでいたし、一緒に出かける新八や平助以外の行動を、気にかけたことがなかった所為だ。もしかしたら、こいつもこいつなりに思うところがあって、酒の力を借りていたのかもしれない。
こいつと二人で酒を酌み交わすってのも面白ぇと、足元に転がる盃を拾い上げる。
「床、冷たくて気持ちいいんですよ」
声に反応して顔をあげた俺は、月明かりで映し出されたその姿に、目を奪われた。
はだけた裾から覗く白い足。
濡れたままのほどけた髪。
酒の所為か上気した表情が、やけに扇情的で――
身体の奥に隠そうとしていた熱が、ちりちりと、残った理性を焼いていくような軽い目眩。
「ねぇ」
「人を斬ったあとって、なんか…熱くなりません?」
「―――え?」
「ま、生殖本能ってやつなんでしょうけど」
「……………」
「死ぬかもしれない、って。それを近くに感じた時、自分を残しておきたくなる……男の性ってやつですよ」
まるで、俺の状態を見透かしてるかのように紡がれる、総司の言葉。
それは、いつになく饒舌で―――
「だから、僕がおかしいのかな…って。思わなくもないんですけど」
滅多なことでは他人を踏み込ませないこいつが、どうしたことか『本音』を吐露している。ただの直感だが、確信はあった。だから、黙って次の言葉を待つ。
半分くらいは、見たことのない総司に対する『興味』ってやつだったかもしれない。
「僕は存在を残したいだなんて、これっぽっちも思ったことはないんです。なのに昂る、熱くなる―――それってどうしてなんだろう?どうやったらこの渇きは、満たされるんだろう…って、いつもそればっかり考えてた」
総司は月を仰いでから、再び床に体を預けた。
同じ類の欲を孕んだ瞳と、舌なめずりするその様が俺を煽る。
「ねぇ左之さん――多分、僕はね」
いっそのこと誰かに、僕を壊して欲しいんです。
それが“その日”
俺と総司が最後に交えた言葉になった。
後は言葉なんて邪魔なだけで、利害一致って名目の性欲処理。
宿った熱を吐き出す為の、ただの「器」を手にした俺。
渇きを満たすために、俺という道具を手に入れた総司。
始まりは、たしかにそうだった。
それこそ獣みたいに本能だけで交わった。
ただ――体も心も曝け出して、言葉をかわして、唇を重ねて――何度も抱き合えば、情もわく。
女との行為に対する罪悪感から逃げた俺に与えられた「器」は、いつからか……気付いた時にはもうすでに、ただの器じゃなくなっていた。
たしかに“命”なんて宿らねぇ。
だけどその身に“俺”を刻み込みたいと思う、たった1つの存在に。
** ** ** **「左之さん?おかえりなさい!」
「――あぁ、ただいま。」
「首尾はどうでしたか…って、聞くまでもないか。お疲れ様です」
新八たちと別れ屯所へと戻った俺は、いの一番に総司の部屋を訪れた。
今日の任務には、一番組は関わっていない(前線で戦えない事に勿論こいつは異を唱えたが、与えられた仕事が近藤さんの護衛と聞くやいなや、すぐに大人しくなったってんだから……全くあの人が羨ましくなる)
「左之さん?」
血の匂いのしない総司の身体を、自らの腕の中に引き寄せる。
「左之さん……」
俺の劣情を感じ取った総司が、いつものように、着物を脱ぐための腰紐に手をかけた。本当ならこのまま、思い切り貪りたかったが、今日の目的はそれじゃない――
「違う、総司。そうじゃねぇ」
「え……?」
「そうじゃねぇんだ」
総司の手を包み込んでその甲に口付ければ、翡翠の奥が戸惑いに揺れる。首をかしげるその仕草は、ひどく幼さを感じさせた。
頬を包み込んでから唇へ、触れるだけの接吻をする。
それだけで、俺の中で暴れてまわっていた熱が徐々に鎮火されていく(嗚呼、これが愛おしいってやつなのか)
「なぁ、総司―――」
俺はもうお前を壊せない。
壊したいんじゃない。
慈しみたい。
愛したい。
お前と言う存在に、俺の証を刻み込みたい。
本気になっちまったと告げても、
お前は背を向けずに居てくれるか?
それともやっぱり、この関係は終わっちまうのか?
それでも 俺は、
「――お前にどうしても、伝えたいんだ」
相互サイト様「
Glacia」のakaya様へ!!
「幕末原沖ならなんでも」との事だったので、本当に真剣に原沖を考えていたら…なんか未満な二人になってしまいまして…スミマセンすみません(@_@)総司視点がないと原沖になりきらないこのモヤモヤ感!(土下座)
すごく書ききれてない所いっぱいあるんですが、幕末ならどうしてもやっておきたかったネタだったので、勢いで書いてしまいました。ほとんどがR指定になりそうな総司視点も、そのうちどこかで補完したい、です;
甘くてベタな原v沖にしなさいよ!…ってあれば、また贈りなおさせていただきますのでーー>< 言ってやって下さい!
こんな奴ですが、これからも原沖同士としてヨロシクお願い致します♪相互ありがとうございました!← →
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