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思春期真っ盛り(平沖平2)

「青春真っ盛り」の続きをイメージ


――あ。そういや腕立てしてなかった!

彼―藤堂平助―が、その事に気づいたのは夜、布団に入ってからの事だった。


「大好きな総司に相応しい男になるために!」

それを合言葉に、家でのトレーニングの日課となった腕立て・腹筋・スクワット。計100回×2セット―――を、している途中で風呂に呼ばれた。汗を流してさっぱりした後、「平助」とマジックで書き殴った自分用の牛乳を飲み干して、気分良くそのまま布団に入ってしまったのだ。

なんたる失態。

電気も消して、すでに寝る準備は万端。
ぬくぬくと温まってきた布団から出るのは、なかなかに至難の技で……少年は暗闇の中、「う〜ん」と唸り声をあげることになった。それもそのはず。暦の上では春になっているのだが、今日の気温は真冬日だった。

ほとんどのトレーニングは終了している。
残すは腕立て100回のみ。
今日だけは、いっそこのまま寝てしまおうか。
そんな甘い考えが頭の片隅に浮かんでくる。

(でも…なぁ……)

こういった事は一日のサボりが怠惰を招く。


『頭もいいとカッコいいよね』

好意を寄せる相手から、ぐさりと突きささる言葉をもらったあの日から、毎日キチンと予習しようと広げた数学の教科書。一日怠けたことにより、そのままズルズルと一週間も予習をサボってしまったのは、つい先日の事だった。


仕方ない、このまま布団でやってしまおう。

ゴロンとそのまま一回転。

うつぶせになって体を持ち上げる。



どうして突然、そんな事を考えたのかと問われれば……『多感なお年頃ですから!』と笑って誤魔化すほかにない。


暗がりの布団の中で、自分の枕と見つめあった瞬間ふと頭をよぎったのは、目下片想い中!お付き合いしたいと望んでいる“大好きな先輩”を組み敷く己の姿だった。(そこに、本来あるべき身長差がなくなっていたのは、少年が思い描く理想のビジョンだったからだろう)


――!!うわ…俺、何考えてっ……!


真っ赤に染まった頬の熱さも、じわりと火照った体の熱さも、もちろん腕立てをしたからではない。
トレーニングのことなんて、一瞬にしてはるか彼方へ。


『平助クン』


想像の中の想い人が、甘く微笑んで誘惑をかける。少年はゴクリと喉を鳴らした。
今は、こんな奇跡なんて起こるわけないだろうけれど。でも、いつか本当に、恋人になれる日が来るのなら。


「……そ、総司…」


カラカラに渇いた喉からしぼり出した声が、ビックリするくらい掠れていることに気付いて無理やり唾を飲み込んだ。

キスなんてしたことはないけれど。
ドラマや漫画で見たことのあるシーンの記憶だけをたよりに、ゆっくりと目を閉じて…少しだけ顔を傾ける。


―――大好きだ!


おとした唇の先からは当然、枕カバーのざらついた布の感触しか伝わってこない。でも、いつか本当に、恋人になれる日が来るのなら。


少年は今日も“いつか”を夢を見る。


【翌朝】
「おはよ〜平助クン」
「うわーーーっ!そそそ総司!!」
「…なに?そんな驚いちゃって」
「ごごごゴメン!本当にゴメン!!俺、今日は先に学校行くからっ!」
「え、ちょっ…平助クン!?」



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