小説 | ナノ





とある珈琲店員の受難

第3者目線のちょっと変な原沖/現代


夜も眠らない街…なんて言われてる都会のど真ん中、高層ビルが立ち並ぶ通りの一角にある「格式高さ」が売りの珈琲ショップ。紳士淑女の集いの間。そこが“私”のバイト先――


【珈琲ショップ(現代)】


リン…と澄んだ音とともにドアが開いた。
時刻は間もなく日付の変わる23時40分。

「いらっしゃいませ」

木のプレートで出来たオシャレなメニューを小脇に抱えてお客様をお出迎え。
背筋を伸ばして礼儀正しく、お辞儀は浅すぎず深すぎず。最初のうちは畏まり過ぎて疲れちゃったけど、数年たった今ではすっかり身についた行為だ。

今日は土曜日。

近くの映画館でレイトショーが行なわれているから、いつもよりちょっと人が多いな、と考えながら顔をあげると、目の前にいたのはモデルばりのイイ男――…思わず息を飲んでしまう。
優しげな笑みを浮かべるその“お客様”は、本当に、背が高くって格好良い!赤みがかった長めの髪をサラリとかきあげたその仕草に、ぼーっと見とれてしまったと同時に、ふと、何処からか冷たい視線を感じて、私は我に返った。
気付けばその人の背後から、私を睨みつけてくる少年が1人。こちらの彼も負けず劣らず格好良い…んだけれど、綺麗な翡翠の瞳から発される――殺気?――が、容姿云々の前に怖さで身体をすくませる。

「ぉ…、お二人様でよろしいでしょうか?」
「そうだよ、禁煙でね」

目の前の人が答えるより先に、後ろの怖い彼がぶっきらぼうに返答する。(視線も口調も敵意剥き出しって感じなのは本当に何でなんだろう…!?)
なんとか笑顔を作って「こちらへどうぞ」と案内すれば、後ろから流れてくる二人の会話。

「やっぱり吸っちゃ駄目か?」
「ヤダ。なんか、お店の喫煙席って煙であふれてる感じじゃない」
「まあなぁ……んじゃ、後で車乗る前一本吸わせてくれ」
「いいよ。僕、煙草は好きじゃないけどさ――でも、」

確かにうちの店はヘビースモーカーな年配の方も愛用してくれていて、喫煙席はタバコ嫌いには相当ツラいと思う。後ろの会話を聞く限り、どうやら少年の方は煙草を好いてはいないらしい。
そうだ、喫煙席から一番遠い窓際の席があいているから、そこに案内してあげよう。

その席へ彼らを案内すれば、優しげな彼から「ありがとう」と素敵な笑みがふってきた。それは、何時間も立ちっぱなしの足の疲れとかムカつく客がいたこととか、そんな今日の疲れが全部吹き飛んじゃうくらいの威力をもっていて、私も自然と笑顔になってしまう。
(ちょっと顔赤くなってないかな)と内心焦りながら着席を待つ私はどこか浮かれ気味だった。

失礼しますとテーブルの上へメニューを置こうとしたその瞬間。

ほんの僅か、
本当に一瞬だけ私をチラリと流し見た少年と目が合って、



「でも、キスの時の煙草の味は嫌いじゃないよ」



発せられたその台詞。

メニューを落とさず笑みも絶やさなかった私のバイト魂に+αのお給料をつけて欲しい!

さのさんのあじがするもんね、そう言って楽しげに笑う少年からはもう、さっきの殺気(自分で言い訳するのもなんだけど、これは決してギャグじゃない!)――は感じられない。
向かいの席で、特に焦る様子もなく少年を見つめる“さのさん”と思える人物は、相変らず素敵な笑みを浮かべたままだ。思わずまた見惚れそうになってしまった私は「マズいマズい。」と背を向けた。

もちろん去り際の礼を忘れたりしない。
お辞儀は深すぎず浅すぎず。
でも……


恋人同士、なのかな とか。


やっぱりちょっと気になって、こっそりと2人の席を盗み見る。そこからは、砂糖とミルクをた〜っぷり入れたカフェオレみたいに、ふんわりと甘い雰囲気がただよってて、やっぱりそうなんだな…って思うのと同時に、私も無性に恋がしたくなった。
私に対する少年の嫉妬と牽制(多分、この解釈で間違いない。)が、すっごく可愛く思えてきて―――なんだか羨ましくなったから、かもしれない。

すみません、と遠くの席から呼ばれる声がする。

私は、背筋をピンと伸ばし直してからゆっくり一歩を踏み出した。ちょっと顔が赤くなっているかもしれない……のは、この際大目にみて下さい。



時刻は23時45分。間もなく日付が変わります。
私のバイトは朝5時まで、まだまだ先は長いのだ。



左之さんは普通にイイ男だと思う。
モテるのももう公式でいんじゃね?って感じなので、恋人な原沖の「周りの人」とか「女の子」を考えてたらこうなった。
実はひっそり続く自己満足シリーズww



← →

TextTop




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -