嫉妬。
幕末「恋人設定」の原沖の場合。
心の奥にありそうな感情。“剣”として道を切り開くのだと迷いなくつき進む。
――あの人の前に立つ総司は一騎当千、まさに勇壮。
意志を宿した曇りのない目、そこにあるのは確かな決意。
――あの人の背中を見つめる総司は直向で綺麗だ。
嘘偽りのない笑顔、幸せそうに笑う声。
――あの人の隣にいる総司は、素直で可愛い。
考えても無駄だ。
そんなことは百も承知のはずではないか、と原田は自嘲し空を見上げた。目の前にある、儚くも……凛と咲き誇る満開の桜にしばし酔いしれる。
手にしていた杯にその一片が入り込んだが、気にせず一気に飲み干した。
感じる喉の熱さと、全身の気だるさ――
常ならば『心地好い』と感じる極上の日本酒の効果は、今は、一度“負”の方向に入ってしまった心には、追い討ちをかけるだけのものでしかなかった。
考えても無駄だ。
嫉妬する相手を間違ってる。考えるな、と。己に言い聞かせるよう小さく呟く。滅多にあることではなかったが、誤った酔い方をしてしまったようだと反省しながら目を閉じた。
瞼の裏に浮かぶのは、狂おしいほどに愛しい恋人の姿。
(お前の中で―――俺は、何処に居る?)
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