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チョコレイトセンセーション

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「コレ全部、永倉先生が貰ったの?」


机の上にはたくさんのチョコが転がっていた。

圧倒的に多いのは、コンビニで購入されたであろうマーブルチョコやらチロルやら。そして数百円クラスの、バレンタイン仕様に装いを変えているお菓子たち。
次いで多いのは、手作りのようだが――どうやらそれは、どこかのクラスの調理実習ででも作成されたものらしい。剥き出しのものからラップに包まれただけのもの、似たようなマフィンの山がゴロゴロと転がっていた。

その中にほんのりと好意を匂わせるような、丁寧に包装を施されたチョコが数個、紛れ込んでいるのを本人は気付いているのだろうか?

「まぁ……、貰えないよりはマシだよな。いっつも数だけは貰えるんだけどよ、モテてるわけじゃねーっつーか…」
「………。」
「あーくそっ!もう慣れたぜ!全部義理だってわかってんだよ!」

予想通りのことではあったが、やはり気付いていないらしい。
その様子を見た総司は、ホッとするのと同時に落胆もした。

永倉を想っている女の子がいる、その事実に本人が気付かないことは、総司にしてみればありがたかった。

けれど、自分が今カバンの中に忍ばせている永倉宛のチョコレートも、伝える事など出来ないとわかっていても用意してしまった“想い”の詰ったチョコレートも―――「義理だ」と言って渡してしまえば、あのお菓子の山の一部としておざなりに扱われてしまうんだろうか。

それはちょっと悲しい気がする。


どうしようか。総司が迷っていると、永倉が「そういや…」と声をかけてきた。

「なんか用があって来たんじゃねぇのか?課題…とかは別に出してねぇよな?」
「え――あ、あぁ。ほら、アレです」
「アレ?」
「モテない永倉先生が『誰かチョコくれてもいいんだぞ!』って宣伝してたの気になってさ。ちゃんと貰えたのかなぁ…って、心配して見に来てあげた訳です。優しい生徒だよね、僕って」
「いや…逆だろそれ。鬼か、お前は」


「あはは!じゃあ、無事結果もわかったし帰ります。たくさん貰えて良かったねセンセ!」



*********


結局カバンの中のチョコを渡すことなく、その場を去った総司は―――そのまま職員用の昇降口へ足を向けた。

チョコの種類や包装などで「本命チョコであるか否か」を正しく判断してくれるような相手ならば、渡すだけで良かったのだが。

どうやら永倉は、そう言った恋愛に対する嗅覚は持ちあわせていないようである。

それならば……

はっきりと好意を伝えなくてはならない。

「好きだ」と伝えなければ、総司の用意したチョコレートも、あのコンビニチョコやマフィンの山に埋もれてしまう。


(本っ当、鈍いんだから。明らかに本命チョコ混じってたじゃない)


永倉の靴箱を発見した総司は、周りに人の気配がないことを確認してから、カバンの中からチョコレートとルーズリーフを一枚取り出した。メッセージカードなんて洒落たものは用意していない。けれど多分永倉は、可愛いメッセージカードなのかルーズリーフの切れ端なのか、そんな点は気にしないのだろうと思う。

義理ですと、豪華な本命チョコを渡しても無駄なのだ。
綺麗な便箋に、可愛いカードに、隠した想いを仄めかすだけではダメなのだ。

『本命です』と伝えなくては、意味がない。




―― いつも見てます。 S ――



少し迷って、それから総司は短い言葉だけを綴った。

満足、とは言い切れないけれど。
これでこのチョコレートが「その他大勢」扱いを受けることからは救われる筈だ。


急いで書いたその紙と、用意したチョコをそっと置いて、総司はその場を後にした。


(卒業前くらい、には……きっと…)




いつか「好き」だと告げられればいい。


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