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8月/原田誕/SSL(2)


総司は悪戯っぽい笑みを浮かべて肩をすくめる。


「そういえば。先生って意外と朝早いんだね、ビックリしちゃった」


それから「一見不良教師っぽいのに」なんて笑って、俺の顔を覗きこむように背を屈めた距離の近さ。
久しぶりに間近で見た笑顔に、ドクンと大きく心臓が波打ち(これじゃまるで初恋真っ最中のガキじゃないか)、俺は慌てて視線をそらした。


「どっからどう見ても、真面目で優しそうな先生だろうが」

誤魔化すように髪をかきあげ、気取ったポーズで取り繕う。隣りで「えぇ〜?」とあがる抗議の声を聞きながら、どうにか“いつもの自分のペース”を取り戻せたようだと安堵する、なんて―――ああ本当に…俺らしくもない。


カンカンカン...と。
未だ鳴り響く踏み切りの警告音が、なんとも不快で目眩がする。


そうして待つうちに、ふと総司が手にしている『缶』が目に入った。どうやらソレが、先ほど首筋を襲ったものの正体らしい。

「あ…っと、そうだ。これ――」

視線に気付いたらしい総司が、
持っている缶を軽く揺らした。

「良かったら、もらってくれません?」

「貰って…って、なんでまた」

大の甘党の総司が買った飲み物は、きっと俺には甘すぎる。そんな単純な理由から、やんわりと断わりの意を示そうとした俺を、総司の言葉が遮った。

「コレ!間違えてブラック買っちゃったんです」
「間違えてぇ?」
「そこの自販機でね。なんだか眠気が飛ばないから、カフェオレでも買おうかなって思ったんだけど。間違えて隣のボタン押しちゃって……でも僕苦いの嫌いだし」
「どんだけ寝ぼけてたんだよ」
「間違えたものは仕方ないじゃない。で、困ってた所に先生が来たってワケ」


だから 貰って下さい。


そう言って半ば強引に渡されたブラックの缶コーヒー、それは俺がいつも学校で愛用しているものだった。

真っ黒な缶に白い書体が印字されただけの――およそカフェオレとは間違いようもないくらいのシンプルな缶―――こういう些細な出来事が、俺の自惚れをどんどん確信へ近付けていくんだって、コイツは分かってやってるんだろうか。

見れば総司の顔は、ほんのりと赤く染まっている。

暑さのせいと言われれば、納得せざるを得ない温度ではあるが…それじゃどうにも腑に落ちなかった俺は、少しばかりからかってやろうと、総司の頬に手を伸ばした。


「そういや顔赤ぇけど、熱射病とか大丈夫か?」

「えっ……?!あ、今日、すごい暑いから。いつもクーラー効いた部屋にばっかりいたせい、かな?久々にこんなに太陽浴びた気がするし!」


――夏って本当、暑くてイヤですよね。汗もかくしさ、温度が煩わしいって言うか…


誤魔化すようにふえた口数。
そして、指先が触れたか触れないか。

「……っ!」

そんな距離で、総司は一瞬肩を震わせたあと、顔を隠すようにそっぽを向いた。




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