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失恋防止法

大切だから、大切過ぎて
僕らは臆病になりすぎた。




二人縁側へ腰掛けて、流れる雲を見つめながら茶をすする。嘘みたいに平和で、のんびりとした穏やかな日常。隣で過ごす互いの存在を、理由もなく永遠だと信じていた―――“あの日”





これはね、
  ちゃんの話――…

あ、  ちゃんって言うのはね、
僕がよく神社で遊んであげてる子供たちの一人なんだけど。





そんな短い前振りをしてから、
総司は おもむろに 語りだした。

俯いた横顔には長めの前髪がすべり落ち、その表情は伺うことが出来ない。ただ、語る声色は楽しげで。笑う口元が、その唇だけがやけに紅く感じられ、斎藤の視線を釘付けにした。





その子はね、大切にしてる簪を二つ持ってたんだ。どうやら誕生日に、両親が揃って同じものを贈っちゃったから、らしいんだけど。

両親にもらったものだし、勿論どっちも甲乙つけがたい…けど、片方の綺麗な模様の入った簪を、彼女はとっても気に入ったらしいんだ。見せてもらったことがないから、どんな模様かは説明出来ないんだけどね。
だってその子は、そのお気に入りの簪をしてきたことがなかったから――…


綺麗で使うのが勿体ないから。


“一番大切”だから、大事にしまっておくことにして。
同じくらい大切な“二番目”の方を使うことにしたんだって。だから彼女はいっつも“二番目”をしてたけど、僕もその簪の自慢は数え切れないくらい聞いた。お誕生日に貰ったのいいでしょうって、何度も見せてくれたよ。

でもね、この前。

その子が大切に使ってた“二番目”が壊れちゃったんだ―――壊れたっていっても歯の部分がほんのちょっと、欠けただけ、なんだけど。
泣きそうな顔でそれを握り締めてるその子に「仕方ないよ」って僕は言った。
“一番”の宝物は棚に大切にしまったままなんでしょ?きっとそれも出番を待ちわびてる頃なんじゃないかな。そろそろそっちを使ってあげたらいいんじゃない?





一頻り語った総司は、
そこで短く息を吐いた。

渇いた唇を潤すために這わされた舌の紅さに、再び斎藤は目を奪われた。艶を帯びた唇に、吸い込まれてしまいそうな眩暈を感じ、それでも内に籠る欲をおさえようと掌をきつく握り締める。

そんな斎藤に気付いているのか、それとも知らぬふりを通しているのか。総司は淡々と言葉を紡ぐ。





僕が言ったら、その子は黙って泣き出した。愛用のその簪を握りしめて、とっても寂しそうに泣くんだよ。

多分、そう。

その子にとってその簪は、もう“二番目”じゃなくなってた。なんだか可笑しい話だよね。一番大切な宝物は、大事に大事にしまっておいた方だった筈なのに。どこで順番が入れ替わっちゃったんだろう。結局その子は、歯がちょっと欠けただけだからって、愛用の簪を使い続けてる。ねぇ、一君は、どう思う?


―――“一番大切”だからって理由で飾られたままの宝物は……それで本当に嬉しいのかな。





ねえ 一君は どう思う


投げかけられた問に斎藤は最後まで答える事が出来ず、向けられた総司の視線から逃れるように空を見上げた。おそらくはそれが、二人がいつしか定めてしまっていた二人の距離を、壊す最後の機会であっただろう。にもかかわらず……

手を伸ばす勇気は 出なかった。
だが其れは総司とて同じこと、で


「ごめん。狡い聞き方、だったよね」


でもね、僕は
結果的に壊れはしちゃったけど、大事にその子に使われてる簪の方が、きっと幸せだと思うんだよ。


「しかしそれは――……」
「うん?」
「その子は、大切なものを2つ持っていたから、“二番目”を選んで使うことが出来たのだろう」
「うん、そうだね」
「1つしかない、かけがえのないもの、だとしたら」
「壊してしまうかもしれないって云うのは、触れてしまうのは、怖いよね」
「………」
「うん、そうだね。僕も怖い」


僕も怖い。

総司は、風に消えそうな程のか細い声でもう一度呟いた。



それから暫く二人は、縁側へ腰掛けて流れる雲を見続けていた。嘘みたいに平和で、のんびりとした穏やかな時間が過ぎていく。

「な〜んて。のんびりするのも飽きちゃったね。一君軽く手合わせでもしてよ。ね?」

顔をあげた総司の、普段となんら変わりのない笑みに、斎藤もつられて小さな笑みを溢す。


これでいい、と――斎藤は思った。


隣に並んだ大切な存在が、その距離を変えることなく、何1つ変わることなく―――永遠になったのだと思った。






斎藤が、「総司がとある人物と懇ろな関係であるらしい」という風の噂を耳にしたのは、それから少したってからの事。





飾られたままの宝物は
それで本当に嬉しいのかな。

ねぇ、一君は、どう思う?





頭の中にあの時の声が響いた気がした。

けれど、やはり――
これでいいのだ、と小さく呟いてから斎藤は、己の胸の微かな痛みに蓋をした。


失いたくないから始めることが出来なかった二人。想いあったままの平行線の選択。ある意味最強の失恋防止法だと思います…ってことで。相変わらずの自分世界なので意味不ですよスミマセン!
イメージは「受×受コンビ」
なので女々しめです。
一君を想ったままそれでもやっぱり誰かに縋りたかった沖田さん、なので、相手は原田さん・風間さんあたりを妄想。一君は総司をずっと「支える=傷つけない」役を演じることで満足したつもりになっています。多分そのうち後悔します←



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