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「きっかけなんて〜」その後/総司編

正直な話、僕は原田左之助という人が苦手だった。苦手と言うと、少し語弊があるかもしれない。
掴みにくくて自分の中で分類出来ない位置に居る、どうにも距離がはかりにくい人。そんな印象が強かった。



【考えるのは貴方のこと】



左之さんに、さけられている気がする。
気がする…じゃなくて、これはほぼ 確信に近い。

別にあからさまに無視されてるってことじゃない。

(多分、僕と、二人きりで話すのを――避けてる)

それは、僕以外の人は気付かないくらいに巧妙なもの。さらりとかわす態度も、笑顔で誤魔化すことも――得意なはずの僕よりも、あの人はどうしてか一枚うわてだ。
嘘を吐くのは苦手だと言うくせに、相手のための嘘ならば、いくらでも己を偽り上手に演じられる人。だからきっと、そういう事なんだろうと、思う。

心当たりがないわけじゃない。


(やっぱり、この前の、あれかなぁ)


甘えすぎ ちゃったかな。

もしかしたら、近寄り過ぎてしまったかもしれない。踏み込み過ぎてしまったのかも。面倒だと距離を置かれた……の、かもしれない。



**** *****




僕の中で左之さんは、ちょっと特殊な位置づけにある。うまく距離感が掴めなくて、自分で混乱することもしばしば……最初はそれが、むず痒い感じがして苦手だった。



――例えば僕が、
皆をからかって遊ぶとする。


他の人には難しいかもしれない、土方さんや一君の場合。把握しておかなきゃならないのは、悪戯で済ませられるギリギリの境界線。それを知っておくのは、仕掛ける側としてとても重要なことで。僕の我侭はどこまで許されるのか、とか。何をしたら本気で怒らせちゃうんだろう、とか。
決して短くはない付き合いの中で、僕はもう其れをわかってる。そう自負してるからこそ、予想通りの反応が返ってきた時には嬉しくて仕方がない。

平助や新八さんなんかは、まあ単純。僕の予想を裏切らない、もとい誰の予想も裏切らない――素直な反応を返してくれる。物足りないと言えば物足りないけど、『だからつい』、からかいたくなってしまうのもまた真実。うっかり本気で怒らせちゃうようなこともあるんだけど、最後には僕に丸め込まれてくれちゃうんだから……毎度ありがとうございます、だ。


こういう時も、左之さんはちょっとよめない。
さすがに怒られるかな?と思うような事でも、意外とすんなり受け入れてくれたりするし。
僕の企みに気付いたときは、先回りしてするりとかわしてくれちゃったり――かと思えば、気付いてるくせにわざと引っ掛かってくれたりもする。(それはそれで悔しいんだけど)
躍起になって仕掛けてみた事もあった。
敵わないなって終わりにしたのはいつだったろう?

――考えてみれば可笑しな話だ。

苦手意識が強くなるならば、ともかく。

「仕方ないな」って困ったような笑顔で頭を撫でた手が、僕の中の色んなものを払拭した気がする。虚勢、意地、そういうものを全部。だから恐ろしいことに、自分でも気付かないうちにどんどん甘えてしまっていて……



(やっぱり、甘え過ぎ…ちゃったのかも――)



脳裏に浮かんだのは、つい先日の中庭での出来事。

近藤さんからの嬉しいお誘い。結局駄目になってしまって、不貞寝を決め込んだあの日のこと。隣に居てくれた左之さんの体温が気持ちよくて、でもまさかその肩で熟睡してしまうなんて、自分でも少なからず吃驚した一件。
冷静になってから思い起こせば、顔から火が出そうだ。

(よし、あやまろう。)

この前は寝ぼけてたから左之さんに迷惑かけちゃいましたよねごめんなさい。反省してますもうしませんてば。迷惑だったら起こしてくれれば良かったのに。


そうだ、さっさと謝ってしまえばいい。


大丈夫、そうすればきっと左之さんなら“いつも通り”に接してくれる。



“いつも通り”って、なんだろう?






挨拶をする、言葉も交わせる、笑ってくれる。表面上は、なにかが変わったわけじゃない。僕以外は気にもしていない程度の、些細な変化。なら僕は―――


「何が、不満…なんだろう?」





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