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その日は朝から蒸し暑かった。

なんとなく空気から感じる雨の匂いに、総司はくすんだ灰色で覆われた空を見上げた。

(雨ふりそー・・・)

朝の天気予報は、降水確率10%を告げていた。
家を出るときも雲1つない快晴だったのに。

総司は繋いだ右手の先で、気持ちよさそうに歌をうたいながらスキップ――と言っても、スキップだと認識できるのは当の本人と総司くらいの、なんとも覚束ない足取りのもの――をしているそーじを見つめた。

青空が広がっていたのに、出掛ける時にそーじがチョイスしたのは「あめあめふれふれ」のフレーズだったことを思い出す。

「そーじのせいで雨が降りそう・・・なんだったりして」
「――あえ?」
「あ・め。出掛けるときに歌ってたでしょ?」

なんのこと、と言った風にそーじは首を傾げた。どうやら歌っていた当人は、そんなことは覚えていないらしい。

(洗濯物、干しっぱなしだし・・・早く帰らないと)

ちょっと近道・・・と、総司は狭い路地裏へ歩を進めた。

外灯も少なく、暗い時間になってしまうとどことなく物騒な感じがする路地裏は、そーじと歩くには向いていないから、いつもはあまり使用しない。

だから、そこに黄色いのっぽの大群が広がっていることを知らなかったのだ。

「わぁ・・・・」
「ひまーりー」

路地裏の一軒。

昭和初期を思わせる古びた家の庭先に、所狭しとばかりに並ぶ向日葵たち。
1つの花が太陽を仰ぐ大きなものから、ちょうどそーじの背丈くらいの・・・たくさんの花を咲かせた小さなものまで、様々な種類の向日葵があふれていた。

「す・・・ごいね」

総司が思わず立ち尽くして花に見惚れている横で、『ぶちんっ』と嫌な音がした。

もしかして――。

恐る恐るそーじの方を見てみると、予想通り・・・と言うべきか。片手に小さなヒマワリを手にした、ご機嫌そうなそーじの姿。

「そーじ!お花毟っちゃダ――
「あい!」
「…え。あ……えぇっと、お花はね」
「こいね、しょーじにあげうの!」

総司に、あげる。

「おしょろーなんだよ」

そーじは嬉しそうに、かぶった麦わら帽子をおさえながらピョンピョンと跳ねた。帽子の横には、ワンポイントのモチーフとして小さな向日葵が飾られている。(この前みんなと初めての海に行ったとき、原田に買ってもらったそーじの宝物だ)

総司は、そーじと目線の高さを合わせるようにしゃがみこんだ。

「あい。ぷえじぇんと!」

ニコニコと差し出される眩しいくらいの黄色を、小さな掌から受け取って、総司はそーじの帽子の花と同じくらいの位置になるよう片側の耳にそれを挟んだ。
飛びきりの笑顔で「似合う?」と問えば、今更ながら照れたらしいそーじが、返事の代わりに総司に抱きついた。

そのまま小さい身体を抱き上げて、総司は優しい声音で話しだす。

「そーじのプレゼントは凄く嬉しいんだけどね、あんな風に乱暴にむしり取ったら、お花さんだって痛いんだよ?」
「お花しゃん……いちゃい?」
「うん。それにほら…こんなに綺麗にみんなと一緒に咲いてるのに、この子だけ突然いなくなっちゃったら、みんなもこの子も寂しいかもしれないよね」
「あぅ…そーたん、わういこ?」

向日葵の大群を前に、今日のお天気模様と同じように曇っていくそーじの表情。きゅっと結んだ唇は、泣きそうなのを堪えているため。

総司は、その柔らかな頬をツンっとつついた。

「ううん。だってそーじは僕に喜んで欲しくてお花をくれようと思ったんだよね。お花さん達にイジワルしたかったわけじゃないでしょ?」
「そーた…っ、いじめっこしなーもん」
「うん。花もね、優しい気持ちの人にはちゃーんと協力してくれるんだよ。だからね、摘む前にはお花さんに「ゴメンなさい」と「ありがとう」を言ってから。――わかった?」
「ゴエンネとあいがと……」

そーじは、総司の耳にかけられたヒマワリをそっと手にした。それから、抱き上げられて浮いた両足を「おろして」というようにバタつかせる。総司はそれを察してそーじを下ろすと、路地裏に入ったときと同じように小さな手をしっかりと握りしめる。

二人揃って見上げるヒマワリの大群。


「ゴメ…ちゃ〜、と。あいがとなの!」


くすんだ灰色の空模様はかわらず。だけれど、一箇所から顔を出した青空に――総司はなんとなく、雨は降らないような気がしていた。




真夏のほっこり課外授業

この後たぶん、礼儀正しい家族総司はお家の人にもゴメンなさいしに行って、左之さんの分とそーじの分と。家族用花束をプレゼントされて帰宅するのですね。
ゴメンナサイとありがとうがちゃんと伝わって、花束を持つそーじもご満悦。そんな感じ^^


この前「ママにあげる」って、道端でお花をプレゼントしてた女の子がいたとですよw可愛かったです^^




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