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▼ 懐いた猫。


抱きしめて、茶色がかった柔らかな髪を梳けば
総司は気持ち良さそうに瞼を下ろした。
ふっくらとしたその上に、口付けをひとつ。
それから原田は「好きだ」と囁きながら
鼻に、頬に、同じようにそれを繰り返した。
高まる期待に速まる鼓動。
がしかし、待てども唇が重なることはなく。
焦れた総司が目を開くと、楽しげな色を宿す琥珀が見えた。
望まれていることなどわかっているくせに。
とぼけるように首を傾げる姿がいっそ憎らしい。

「意地悪」――音にはせずに告げてから。
目尻を赤く染めながら、総司は強請るように上を向いた。

原田はもう一度「好きだ」と強く抱きしめる。
その声が何を求めているか――知った総司は、
少しだけ唇を尖らせて「僕も」と小さく囁いた。
高まる期待に速まる鼓動。
今度こそ、望んだ熱は降りてきた。

だがそれは一瞬。

「僕も、なんだ――?」

なあ、その続きは?
優しく意地悪な声に導かれ、総司はその先を素直に告げた。

「僕も……、好き」

それは以前なら絶対に口に出来なかった言葉。

――嫌い。
――嫌いじゃないよ。
それが天邪鬼なりの、精一杯の愛情表現。
本音をそのまま音にするなんて。
不可能な事 だったのだ。少し前までは。

「僕も好きだよ」

もう一度。
総司は原田の瞳を見つめ、心を伝えた。

こうして互いを想いながら
唇だけではなく
心を重ねることがどんなに満たされるか。

体だけではなく
心を裸にして繋がることが
どんなに気持ちがよいこと、なのか。

随分と長い時間をかけ 教えてくれた人。

だからもう偽りの言葉など必要ない。
真っ向から本心を告げることが出来る、
そんな自分に最初は戸惑いもしたけれど。

これも確かに“僕”だから。

最近はそんな認識で、
すっかり受け入れられるようになった“自分”



上気した頬をあたたかな両手で包まれた。
優しく啄ばまれる唇。
もっと、と強請れば角度を変えて何度も。
総司は原田の背に腕をまわし強く引き寄せた。
深くなる口付け。
滑り込んでくる熱い舌。
徐々に蕩かされていく
身体と、意識と、己の全て。

気持ちいい。

熱に侵され、うわ言のように呟いた。
このまま奥底まで、何もかも奪われてしまいたい。
いつものように奪って欲しい。

けれど、感じる違和感。

何かが可笑しい、と。
正体のわからない不安を感じた総司は目を開いた。
頬を包む手は、変わらず温かかった。
目の前の薄く紅い唇は弧を描いている。
端正な顔が綺麗に微笑むさまに変わりはない。

ただ違うと感じるのは1点だけ。

総司を見つめる瞳の奥から熱を感じない。
琥珀の中に潜んでいるのは
突き刺す 冷気 のような―――

何故と、感じる違和感。



「なあ、総司――」



その声に。
総司は頭のてっぺんから足の先まで、
凍ってしまったかのように動かせなくなった。
その瞳からも、
逃れたいのに逃れる術がない。

「なぁ……




 俺のこと、好きか?














『なら、もう要らない』




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