その時まで


ベッタリと服の背につく汗が気持ち悪くて、無意識にパタパタと背中側の服に空気を入れる。変わらない熱気だけが背中から入り込み、そんな歯がゆさにしばし嫌悪感だけが残った。
「ラビ、大丈夫?」
「ん? あぁ、なんとか……」
 彼女はオレの顔を覗きながら手元にあった薄い資料でパタパタと風を作ってくれる。なんとも優しくて、気が付けば手は彼女の頭にあって無造作にそれを撫でる。猫のような反応が愛おしかった。
 夏真っ盛り、教団内には冷房というものがほとんど完備されていないので窓から入ってくるほんの少しの風だけが便りだった。それでも暑い人は無理にお風呂に入り汗を洗い落とす。そんな作業が続いた。せっかくの休みもそんな暑さにばかり気が取られる。だから夏は好きじゃない。
「あっついねー」
「おう……」
 会話が続かない。何か話そうとは思うのだけど、そこまで頭が回らなかった。それもこれも彼女がぐったりとバテて机に張り付いているのが可愛いのが問題だ。
「ひゅ!?」
 ほっぺたをつねってみる。もちもちの柔らかい肌触りがたまらない。
「ちょっと!」
 反対側も掴んで引っ張ってみる。両方から引っ張られたり戻されたりする顔が、たまらなく可愛い。もう、なんだんだ、この生き物はってくらいに。
「ううー」
「ぶふっ」
「……! 自分でやっといて笑うのってどうなの! もうラビ嫌い!」
 それでも止めないで引っ張ったり戻したり。そういうことをいつまでも繰り返す。途中で彼女は諦めたように力が抜けて、先ほどと変わらなく机に張り付くようにうなだれた。
 反応がなくなれば先ほどと何も変わらない。少しだけ考えてから、彼女が目を閉じた隙を付いて唇を奪ってみる。ぱちくりと瞬きを繰り返し、オレの方をじっと見つめて、それから何秒もしないで顔が真っ赤になっていく。
 廊下からはバタバタと人が走る音が聞こえる。外からは蝉の声が止めど無く流れ込んでくる。
「あ、あっつい……ね……」
 バッと机から起き上がり、目をそらして頬を抑える。もちろん、そんな反応をしてくれることを予想していのだけど。
「あっついさー」
 計画通り、と自分は少しだけにやける。そんな彼女が今は愛おしい。
 こんな暑さはもう要らない。それでも彼女が少しでも嬉しがってくれるのであれば、暑くても構わない。こんな時間がいつまでも続くのであれば、自分はなんだって怖くなかった。

 (いつかここを離れるその時まで。)



 


とりあえずイチャイチャさせたかっただけ。
2012/6/30


[モドル]

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