白煙






「ラビー、タバコなんて体に悪いよ、止めて」
「んー、そのうち」

 彼の口から吐かれる白い気体。人差し指と中指に挟まれた白い棒。
 彼の部屋に来たのは2年ぶりだった。高校を卒業した彼は祖父と共に旅をし始めた。理由は知らないけど。そうして2年ぶりに連絡が来て、会おうということになったのだ。
 部屋はほとんど開けているらしい。そりゃそうだ。年に何回かしか帰ってこない。ワンルームの狭い部屋には山積みになった各地の新聞や資料が所狭しと場所を無くしていく。正直この部屋を残しておく必要ってあるのかと疑問にも思うが、でもこうやってまた会えるのならばあってよかったと思える。

 久しぶりにあったと思えば、彼は伸びきった髪を後ろで結び、口にはタバコ。すっかり大人になっていた。元々背は高かったが、もっと伸びてなんだか届かない存在になってしまったみたいで寂しくも思う。

「リナリー、タバコ苦手?」
「苦手っていうか、なんていうか」

 うーん、と頭を捻る。多分苦手、というわけではない。臭いには慣れていたし、頭痛がするわけでもなかった。

「ごめん、やっぱり今は止める」
「あ、いや」
「ううん、リナリーが嫌がるなら」

 彼はそう言いながら手を伸ばし、灰皿にタバコを押し付けた。がっちりとした腕が目に止まる。すっかり大人なんだね。遠く感じたんじゃなくて、きっと私が子供だということを自覚してしまうのだ。

「タバコはいいんだよ、本当に」
「んえ、でも止めろって言ってたじゃん」
「だってラビの寿命縮んじゃったら寂しいから」
「…………。」

 偽善者みたいな言葉を並べてしまったきがすると、なんとなく言ってから気がついた。
 タバコっていうのはやっぱりその人の好みだし、口出しするのはタブーのような世の中になった気がする。吸うのはその人の勝手だろって、なんかそんな風潮があった気がした。だから止めて欲しくても言えない。
 言ってから後悔していた。なんて今更言っても遅いんだけど。

「ん、換気する」
「え、急にどうしたの」
「いんや、そんな気分なんさー」

 そう言って彼は立ち上がり、灰皿の中身を袋に詰め込んだ。それから窓を開けて風が部屋に流れ込んできた。春風に乗って桜が一枚、資料の山に突撃する。ふと手に取って彼に渡すと、彼は小さくほころんで私の頭をがむしゃらに撫で回す。

「な、なに?」
「うん、そんな気分なんだって」
「嘘つきー」
「はははっ」

 そういえばここのアパートからは桜がよく見えるんだっけ。忘れていた。次々に花びらが入ってきて、白と黒の紙を桃色に初めていく。

「春から大学?」
「うん、キャンパスライフなのよ」
「頑張ってな」
「あったりまえじゃない」

 そう言いながら私は彼の腕を引っ張って首に回させる。無理やり体温を感じてみる。彼は少し間を開けてからそっと後ろから抱きしめてくれた。
 タバコの臭い。きっとそれ取れないねって、でもそれでもいいんだよって、良く分からない自分の回路を確かめるように、彼の体温を感じ取った。


(死んじゃうのは無しだよ)








タバコの仕草は好きなんですけどねー。臭いがどうもダメです。
2012/03/27


[モドル]

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