貴方のコト 少しずつ忘れていく様で
春。舞い散った桜を眺めても、私はそれと言って感動するわけでも悲観するわけでも無かった。真っ青になった空を見ても、晴々しい気持ちになるわけでも、こみ上げる期待があるわけでも無い。
一つ、そう。この季節になれば思いだすのは、君の残した台詞だけだろうか。なんて言っていたかな。それすらも私は記憶を真っ白にしていくらしい。
タンスの奥に入っていたのだろう、少し端の切れた封筒に小さな便箋が一枚。故意的なのか、偶然なのか分からないが、桜の花びらも入っていた。
「そうだ。思いだした。また桜が咲いたらって書いてあったかな」
ふと歩いていた足を止め、咲き誇っている桜を見上げた。
桃色に染まり、見る者を魅了する。私は魅了なんてされないってちょっと強がってみたが、それでもこの桜は今年も咲いている。
日本に咲く桜はいつでも国民から愛されている。それって羨ましいなって思ったりするのだ。
彼から手紙を貰ってもう10年。もう彼の事を思い出すこともそうそう無くなった。最後の起き手紙をただただ待った時期もあったけど、それすらも忘れてしまった。
少しずつ忘れていく彼との日々を、私はちょっぴり寂しくは思う。それでも前を向かないと、と前向きには思うのだ。
あの封筒は何処にいってしまったのだろうか。引っ越しを何度もしているうちになくしてしまったに違いない。そうやって彼との思い出も消えていく。
それでいい。それでいいのだ。
彼もきっと多分結婚して、幸せな生活を送っているだろう。それでいいじゃないか。私はまだ引き摺っているのだろうか。それも大人げないから、もう忘れることにする。
この春で最後。急には無理かもしれなけど、少しずつ忘れよう。それは私と彼の幸せじゃないか。きっと心のどこかで今も引き摺っているのだろうけど。
それにもういい大人がこんな幼稚な約束を守るわけでもないし、婚期を逃しては話にもならない。
私は小さく首を振り、桜の並木道を歩きだす。
ここがスタートかもしれない。やっと君と別れられた気がする。
桜が咲くこの季節を、私は少しずつ忘れていくようで。
でも、それでもいいかなって、今だから思える。
サヨウナラ。また来世にでも。
バイバイ。私の愛しい××。
ちょっと春物書きたかっただけなんです。