「さようなら」

なんて言葉は聞きたくはなかった。それまで考えていた未来も、たくさんした約束も、そんなたった5文字で壊されてしまう。
目の前に居る彼を、私は滲んだ視界で手探りで探した。首を捻っても、手を伸ばしても、こんなに近いのに届かなかった。タイムアップには早すぎる宣告ね。

「どうして?」
「どうしてって、任務に決まってるさー」

それは日常会話だった。それでも、彼の口から放たれるさよならには、強い意志が宿っている。
いつも通り、にこやかに手を振るラビ。私だけ泣いてばかみたいじゃない。

「大丈夫、帰ってくるって」
「……嘘じゃない?」
「あぁ!オレは嘘つかないさー!」
「……………嘘つき」
「うっ………。でも任務なんだから、帰ってくるのはホントだって」

大きく頷く。彼はいつだってそうだ。

ブックマンの次期後継者。今はたまたまこちら側に居るだけ。また彼等はどこかに旅立ち、新たな記録をしていく。それが今ではないのは分かっていた。分かっている。それでも、さよならなんて言われるのは、正直キツい。


居なくなるのは嫌だった。ここの外の事をあまり分からない私にとっても、彼は太陽で、世界なのだ。
明るい太陽。知識の世界。彼はいつだって私の自信と希望。それはまた、押し付けがましいけど。

居なくなるのは寂しい。
だって大好きなんだもの。
居なくなるのは怖い。
貴方が大好きだから。

「オレは………、リナリーを残して消えないさ」
「え……?」

滲んだ視界に、彼の瞳が映る。澄んだ瞳を私は見るも間もなく、唇に衝撃を感じた。
全てが満たされていく。麻薬ってこんな感覚だろうか。体の中も頭の中も彼しか居ない。

長い抱擁に柔らかな接吻。彼の体温、心音。生きている証拠を見せつけされられる。

「大丈夫。大丈夫だから」

頭を撫でられ、背中に回された腕に、若干力が注がれた。温かみの帯びた腕の存在感に、私は安心を覚える。

彼が居ると安心する。
だから居なくなるのは寂しい。
私にしか感じられないこの瞬間と感情は、誰にもあげたくは無い。否、あげるつもりもない。

そこで気付く。
私のしているのはただの独占欲。彼を手放したくないという独占欲だ。側に居るから分かる。私はそんな欲をいつも感じていた。無意識に。

ふわりと香る、薄い香水が鼻を撫でていく。

「じゃあ、さよならなんて言わないで」
「………。あぁ、分かった」

それは形だけろうと思う。だって彼は嘘つきなのだ。私の口約束を律儀に守りそうにも無い。

「じゃあ、また今度な。ちゃんと待っとけよー!」
「えぇ。言われなくても」

綻んだ私の心に、ラビも少しながらも安心してくれた。

何がしたいのか。
どうせ彼への独占欲。
または愛情。歪んだ愛の形かもしれない。

彼が帰ってくるなんて、いつもいつも信じちゃいない。本当の嘘つきは私だって、ラビはいつ気が付くんだろうか。


「バイバイ、ラビ。気をつけてね」



それはまたいつかの。



甘い
を差し出して

(これが毒だって君は信じてた?)



2011/10/01
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