部屋は妙な静寂を保ち、外も暗いのに電気は点いていない。否、点けようとしていないからだ。彼の吐息が耳元でし、くすぐったいという感情を通り越してそれは快感へと変換されていた。
「ラビ、近い……。」
「ん、そういう時もあってもいいと思うさー」
言葉が全て部屋に満たされる前に、私の耳へと吸収されていった。まるで彼の声を私が吸っているかのような感覚だ。心音もどきどきどき。どっちの心音か分からなくなってしまっている。
暗くて前も見えない。ラビの顔なんて見えたものではないが、それどころか自分がどこにいるのか、今どっちを見ているのかすら分からない。そんな暗闇の中で、彼は私の髪を撫でたり頬をつついたりしてくる。まるで見えているかのように。
そんなことに私は不公平を感じ、どうにか手探りで彼を見つけたが、きっとこれは肩だろうと判断。
「どうした?」
「いや、ちょっと……」
怖かったです、なんて恥ずかしくて言えない。もしも私がそんなことを言ってしまっては、この後どうなってしまうのかもわからない。私はただただ彼にされるがままにされていく。
電気をつけようかという提案を私は断り、不安に思う思考を押し殺していた。
そこまでしてこの暗闇にこだわることもないのだけれどもと思うが、それでもこの状況が嫌な訳でもない。むしろ楽しい分類なのかもしれないが。
「ふふっ」
「え、急にどうしたさー?」
「いや、なんか」
口を押さえて小さく笑う。どうしてだろうか。この一方的な空間を私は楽しいと感じている。それって、なんだろう。私ってそれ系の人間だったのだろうか。それは世紀の大発見かもしれない。
なんて一人で思う。
「んーー。リナリー」
「なぁに?」
「好きさー」
「そう、私もよ」
そんな何度も何度も聞いている台詞に、私自信飽きていたのかもしれない。呆気ないオウム返しのような返答に、意味があるのか無いのか。
それでもその「言葉」を発することに意味があるのかもしれない。まるで自分への暗示。
「あ、月が出てきたわ」
「おぉ。今日は満月?」
「今日は欠けも無い、純粋な満月ね」
部屋が急にぱぁっと明るくなった。彼の身体が下から徐々に明らかになり、そうしてやっと彼の顔も見えてくる。それでも若干暗いが、彼の顔ははっきりと認識できた。
それはまるで暗示と一緒。オウム返しの言葉と一緒で彼の顔も頭の中で認識しきっている当たり前のことなのかもしれない。
それでも彼の顔に私は手を伸ばし、輪郭にそってすっと撫でる。くすぐったかったのか、少しだけ顔を逸らし小さく笑う。そんな笑顔さえに、自分は彼に魅了されてしまっているのだ。
ムーンライトに照らされた。
(新月になったらどうしよう)
2011/09/27