「日本には『河童』っていうモンスターが存在するらしいさー」
「かっぱ?」

彼があまりにも急にそんな話を振るので、読んでいた本がパラパラと一人進みしていった。
任務もひと段落し、何か用事も無い暇な休日。外では鳥が羽を広げて優雅に回旋。雲も伴い青い空が覗いてきた。そんな雨上がりの湿り気に、私も彼も、少しだけ気が沈んでいた。

「河童って、頭に皿があって……」
「皿?また変わったモンスターね」
「日本って不思議がいっぱいだよなぁ」

くすりと彼は笑い、私も一緒になって笑う。手に持っていた本も、いつの間にか一番最後のページになっていて、内容なんてどうでもよくなって閉じて机の上に無造作に置いた。

隣では引き続き彼は本のページをめくっていく。乾いた紙の音だけが部屋の中で反響しては、寂しさと一緒に私の元へと戻ってくる。

そんなどうでもいい会話はいつの間にか終わっていて、私はしばし彼が本を読み終わるのだけを待った。もしかしたらあと1時間かかるかもしれない。もしかしたらあと5分で読み終わるかもしれない。それは分からなかったけど、今の自分は待つことさえも楽しいと思えるほど彼の事が……。

少しばかり考えていたら、顔が赤くなることすら感じられた。とても恥ずかしくて、今すぐ頭の中を真っ白にしてしまいたい。

「ラビー」
「んーーーー?」

木霊のように彼の声は返ってくる。まるで作業。ベルトコンベアに乗せられた言葉を機械的に返すような。単純作業ですか、なんて。

「いや、なんでもない」
「え、なになに。気になるじゃん」

全然言葉に気持ちが籠ってませんが。

「いいよ、もう」

別に冷たく言ったつもりもなくて、そうやって本に集中しているのに何か返事を求めようとするのもおかしな話だと自分でも理解はしていた。でも、それでも何か構ってほしくて。
 ………・…。いつから自分ってこんなに構ってちゃんだったんだろうか。

「ラビのせいじゃん……」
「え、え?さっきから何?」
「………。いや、本当に何でもないよ」

ふと笑ってやると、やっと安心したように彼も小さく笑ってくれた。そういう仕草がとても好きだった。
パタンと本を閉じるラビ。背表紙でポンと軽く叩かれて、頭を押さえる。ささやかに睨んでやると、次は撫でてくる。

満足したでしょうか、自分。とても満足感に溢れて、心が温まる。こんなにも自分は愛なんてものに飢えていたのだろうか。ちょっとだけ絶望。

「そろそろ晩御飯だし、食堂行く?」
「そうね。そろそろ行こうと思ってたの」

嘘だけど。

「よーっし、今日は食べてやるさー!」
「え、何急にどうしたの?」
「んや、そんな気分なんだって」

何語かも分からない言葉の本を彼は私の読んでいた本の上に置き、立ち上がった。固まっていた背中や肩をほぐし、腕を上に向けて大きく伸ばす。隣に立つと彼の大きさを再度確認することになる。とても大きな背中が妙にかっこよく見える。

「オレ、河童になれるかも」
「……。え?」
「なんちゃってーー。さて、行くかー」
「え、なに、なんなの??」

必死に笑いを堪えるラビを見て、初めて私をからかっていることに気が付いた。いつから、なんだろか。もしかして、最初から?いやまさかなんて考えながら部屋を後にする。最初っていつだろう。考えれば考えるほど、自分は度ツボにはまっていきそうだ。

今日の晩御飯を考えながら、君の事も沢山考えた。

今日は魚、かなぁ。






2011/09/19
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