「ラビ、ラビ!」
「……………………!」


気が付けば、目の前のショートケーキがグチャグチャになっていた。
そこに何があったのか。無残にも形を変えた"それ"は、きっと見た者すべてが首を傾げるだろう。
彼女、リナリー・リーがオレの目の前で叫んでいた事に気が付いたらのは、ほんの少し前。まだ苺が苺だとギリギリ認識されるくらいの頃だっただろうか。

食堂でショートなんて頼むのはいつ以来だろうか。誰かの誕生日?いいや、お祝い事だからといってケーキを食べるだなんて、こんな多忙な生活の中で殆ど無いかと思っていた。
いや、じゃあやっぱり普通に食べたかったから頼んだのが最後だろう。


「ラビ、いつまでケーキを崩すの?グチャグチャになっちゃうよ」
「それでいいんさー」


彼女は向かいの席で小さく首を捻った。そんな仕草に心奪われ、気がつくと苺までグチャグチャにしてしまっていた。
なんとなく綺麗な装飾で象っているケーキを壊したくて。でも苺はそのまんま食べようかな、とか考えていた。

美しいものはそのまんま放置しても、美しいだけだった。ならば崩すのもまた、美しさに似ている気がした。苺は過去の象徴。唯一の自分の理性のように。


きっとだから、自分はいつか彼女をグチャグチャに壊してしまいたい衝動に陥るだろう。
オレの理性が崩れ、壊れ、さよならしたら、君はなんて答えるだろうか。

ささやかな気持ちは溢れ出して、手先を伝い、フォークに移る。
掬って口に運ぶと、変わらない甘い味が口の中に広がった。バニラの香りと、ドロドロになった白濁の物体。


「ラビ、本当においしい?」
「んー。見た目より中身ってこと。ケーキの味は変わらないさー」


うんと頷くと、次々に口に運んでいく。風味が口の中全体に広がるようだった。



苺がぐちゃぐちゃになった。バイバイ、ばいばい。
ずっと前にオレの苺はぐちゃぐちゃだったけどね。それでも君は許してくれるだろうか。






2011/07/29


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