桜は散る時が美しいって言うけどさ、私はそんな言葉が大嫌いだった。だって、散った花びらはどんなに元に戻そうとしても戻らないんだよ。そんなのって、悲しいと思わない?茶色く変色して、土になるんだって。そんなの、怖い。


「別れてほしい」


その言葉は私の頭の中で何度シュミレーションしたのだろうか。
近々言ってくるだろう。そんなこと分かりきっていた。ラビが女性にすぐ目を取られていたことも知っている。女性好きなのは私が入学してから間もなく噂になっていた。

告白したのは星の数?いやまさか、なんて思っていたけど。

君がそんなことを言ってきたのは静かな図書室の一角。世界の歴史スペースだった。君と会って、それから、沢山の思い出が出来上がった場所だった。
私が入学して、彼が卒業する1年間付き合ってくれた。噂は嘘みたいに「違う人に告白していた」なんてことも聞いたことが無かった。


「それは、どうして?もしかして卒業するから?」


これもシュミレーションした受け答えの一つだった。彼が私を腕の中に収めながら小さくため息を吐いた。それはどういうこと?って私は聞きたかったけど。


「それも一理だけど……」
「他に好きな人でもできた?」
「…………っ」


ガクンと肩に力が込められた。力強く引き離された体温が、少しだけ寂しい。
見れば眉間にシワを寄せ、今にも泣きそうな瞳だった。それには自分的に納得が行かない。シュミレーションミスだ。


「違う」
「え?」
「オレ、リナリーのこと、好きだけど。好きだから諦めないといけないこともあるんさ」


言葉の意味が自分にはイマイチ理解しがたい。どういうこと、だろうか。


「卒業したらジジィの仕事継がないといけないって言っただろ?」
「うん、言っていたけど」
「それで全国回らないといけないんだ。だから、オレは。これ以上リナリーを泣かせたくはないし、迷惑も掛けたくない。そういう……こと」


だから、どういうことだ。わかんない。分かんないです、ラビ。

頭の中がどんどんよじれていく。これが新しい人と付き合うための口実だとしたら?こんな時にそんな事考えている自分がまるで馬鹿みたいだった。違うと小さく首を小さく横に降った。
それが違うって分かりきっていた。好きな人ができた?と聞いたときの険しい顔は普通ならできないはずだ。そんなこと、分かっていたのに、本当に自分って馬鹿だなって。


「ごめんなさい。ラビ、ラビ――」


目の前が滲んで、ぼやけて。茶色の本棚がまるで白い本とボーダー模様を作っているようで。私の心の中も、あんな風に滲んでぐちゃぐちゃになってるって。そんなこと思っていたらどんどん涙が出てきた。

変わるはずもない気持ちが整頓出来ていない。いや、前々からできたいたのに、シュミレーションミスのためか整頓出来ていない。結局私の頭程度じゃあ彼への「好き」という気持ちを簡単には消せなかった、ということだろう。


「ごめんな、リナリー」


あぁ、暖かいなって。そんなのずるくない?
あ、そんなの知ってる。彼がずるのも知っている。まだまだやり残したことなんて山のようにあったけど。それでも彼がそうしてくれるのは私を少しでも考えてくれているからのような気がして。



「桜は散る時が綺麗だけど、オレは散って土に戻って、もう一度桜が咲くのだと思っているよ」


そんな言葉が、ふと蘇った。
君が居なくなった次の年の春。桜が咲いて、散って。そして土に帰る。
天色に映る淡い桃色の桜を、私は見上げて手を伸ばした。



それでよかった。
君の選択は間違ってなんか無いよって。


2011/07/22
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