プロローグ

【そこにあるもの】



○畳


○ちゃぶ台


○年期の入ったタンス


○ステッカーだらけの全身鏡


○ドラムをかたどったアナログ時計


○かなり使い込まれたドラムスティック


○小さな木の器に綺麗に並べられた大量の煎餅







以上。










――――――――//∀`*




閑静な監獄。



そういう表現がここには似合う。



静かな夜だ。



監獄というと
囚人達の呻き声やら叫び声やらが
響き渡っているイメージがあるが、少なくとも
このフロアにいる囚人達は皆、安眠中だ。



その部屋の住人も例外ではなかった。
仰向けで、規則正しい寝息をたてて
眠っている。




只今
【am:2:59:59】




例のドラム型時計の針が
午前3時を指すと同時に
彼は目を覚ました。




――3時起きは、ここに来る前からの習慣だったらしい。――



まだ開ききらない切れ長の目をこすりながら
彼は身体を起こした。



「…………んッ」

185cmある身体を限界までのばして
背伸びを一回。




「ッくし!」

腰まである艶のいい金髪が
鼻をくすぐり、くしゃみを一回。





「…………さてと。」




彼は立ち上がり、
裸足で部屋を出た。



彼にはお気に入りのブーツと
ジャケットがあるが
どちらも音で他の囚人を
起こしてしまう可能性があるため、
ここに来たときに渡された
ボーダーの囚人服だけ身につけて
行動するようにしている。






部屋を出てすこし歩いた先にある
共同トイレ・洗面所に着くと
彼は簡単に髪を縛り、洗顔を始めた。


男性とは思えない美しい肌を
手際よく洗っていく。


まるで女性のように。









彼はモデル体型で
加えて手入れの行き届いた
艶やかでさらさらとした金色の髪を持ち、
美しい顔立ちをしている。





彼はいわゆる「男の娘」である。

本来は可愛らしい
少女のような容姿の少年を指す語だが、
彼は身長185cmの20歳。もう立派な青年で、
少女というより、美女だ。
しかしそれ以外に彼を一言で表現する術がない。





「なんでこう……俺って……」




鏡に映る自分の姿を見て
ため息をつくのは
中学時代からの習慣である。




「髪……切ったらいいのか?」


これも中学時代からだ。
しかし、いつも決心が付かず
結局今まで切れずにいる。


彼は暫く鏡の前でぶつぶつ呟き、最後に一言
「俺は漢(オトコ)だっ!」
と言って、髪をほどき
部屋に向かった。







ーーーーーーーーーーーーーーーー//ω`



「公務執行妨害」





これが、彼……ライアが
この監獄に来た理由である。


彼は無類の煎餅好きだ。


いつもはいたってふつうの
好青年だが、
煎餅の話になると人が変わったように
熱く語りだす、悪い癖がある。






その日も、


暇をもて余した警官達が

「煎餅って……何でできてんだ?」
「え……小麦粉っすかね?」

と言っているのを聞き、

「サラダ煎餅はたしかにそうだが、
そこにある草加煎餅をはじめとするいわゆる゛煎餅゛は
米でできているんだ。
そもそも煎餅というのは……」

などと語りだし、

その警官達に
ある事件の出動要請がでた後も
彼らが行くのを許さず
結局まる2時間、
ライアは煎餅を語った。



そして話し終わると同時に
公務執行妨害で逮捕されたのだ。





ーーーーーーーー//m`



「何で話し終わるまで待ったんだろうな……」


逮捕時を思い出すたび
彼は必ずそう思う。


もっと早く捕まえれば
事件現場に間に合うことだって
できただろう、と。



「まあ……誰にでも失敗ってあるよな、うん」



部屋に着いた彼は
そう呟いて、回想を強制終了させた。






【がちゃ】





ドアを開ける。






【3:20:00】




「さてと。」





そう言うと彼は、
使い込まれたドラムスティックを握った。








ーーーーーーー//▽`*




彼は住職だった。

20歳の若さにして
父親からその職を引き継いだ。




彼の宗派の信念は
「困っている者には誰であろうと手を差しのべる」
「己の信念を突き通す」
この2つ。


それさえ守れれば、
見た目は問わない。


戒律もこれといってない。

ただ各人の良識・良心に従い
行動すればよい……






そんな一風変わった宗派なのだ。






だからこそ彼は、
金髪・ブーツ・ジャケット……といった
格好でいる。





それは
木魚で鍛えられたリズム感を
ドラムに応用し、
仲間と共に人気ヴィジュアル系ロックバンドとして
名をはせ、その収益の9割を
様々な団体に募金するため、そして

「人は見た目ではない」
と言うことを
多くの人に理解させるためでもある。







彼は住職である以上に
プロドラマーなわけであり、
獄中であっても毎日の練習はかかせないのだ。

だが昼間は囚人として
やらなければならないことがある。

練習などする暇はない。



就寝前は見回りが厳しい。




残った選択肢は、早朝のみ。





彼は毎日こうしてスティックを握り、
無音状態で孤独な練習に励んでいる。




定められた起床時間の直前までそれは続く。








彼の一日は、こうして幕を開ける。






刑期は1年。




あの日から、
早くも3ヶ月半が経とうとしていた。










ーーーーーーーーー

※投獄日:2011/07/28



続く//▽`*


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