インパチェンス

虎鉄の言う"好き"とか"愛してる"は挨拶のようなもんだと思っていた。この異常な想いは実らない方が幸せなんだから、と自分に言い聞かせてきたのに。いつから虎鉄は自分の想いに気付いていたのだろう。いつから好きだと思ってくれていたのだろう。そんな事を考えると、胸の辺りがぎゅうっと痛い気がした。


「N〜、やっぱ猪里の作る飯はうめーNa〜」
―――どうして、
「…んでSa、俺は一人で頑張ったワケ」
―――どうして、虎鉄をすぐに帰さなかったのだろうと猪里は後悔した。
好きだと言わされたすぐ後に、腹が減ったと虎鉄が言い出した。さっと夕食を作り二人で食べているのだが、いつも通りというか何事もなかったようで、その雰囲気が猪里はなんとなく居心地が悪かった。

「……のり、猪里、聞いてRu?」
「あ、あぁ、聞いとーよ」
本当は居心地の悪さと胸の痛みで、虎鉄の話がどうにも頭に入ってこない。
「なーんか心ここにあらずって感じですけDo…」
あ、もしかして熱か?という虎鉄の声が聞こえたかと思ったら、すうっと細い腕がのびてきて猪里の額にぴたりとくっついた。瞬間、胸の痛みが大きくなって猪里はようやく原因を理解する。
「ちょっと熱いNaー、顔も赤いShi」
「…んー。風邪かもしれんね、うつるといかんし…帰った方がよかよ」
ちょうどいい。そういう事にして、虎鉄には一刻も早く帰って欲しかった。
「そうだNa、いきなり来てゴメンNa。そんで、」
おやすみ。と言いながら、虎鉄は猪里の頬に軽いキスをした。


「ああもうっ……」
虎鉄が帰ってから、猪里は部屋の中でしゃがみ込んだ。こんなにいきなり幸せになって、触れられて、キスをされて、どうしようもなくドキドキして、胸がはち切れそうで。
「いきなりなんしよんね…!」
キスされた方の頬に手を当てながら、猪里は深呼吸を繰り返した。



(ほうせんか,花言葉―私に触れないで)




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