Save me from lovesick

8月31日。夏休みの宿題が終わっていないから手伝ってくれ、と虎鉄は猪里を呼び出した。電話口ではさんざん虎鉄を罵倒してきたが、きっと猪里は来るだろう。電話の5分後には、財布と携帯だけを持って、家を出る。虎鉄にとってそれは、大層根拠のある自信だった。

そして虎鉄の予想通り、電話から数十分後、午後0時過ぎ。この時期、一日の中でも一番暑い時間、猪里は虎鉄の家へとやってきた。

「しっかし人ん事呼び出しといて、クーラーが壊れとうなんて話にならんわ…」
「だってそう言ったら絶対猪里来てくんねーだRo?」
「そんなん当たり前やろ」
あちー、と呟きながら、猪里は下敷きを使って自身に風を送る。
「そんで、あと何が残っとんの?」
「Ahー…終わったやつを言った方が早いかもしれないですNe…」
お前それ本気で言ってんのか、と猪里は言いかけたが、確認した所で気が遠くなるのと同時に、怒りが湧いてくるだけなのでやめておいた。

「きさんは…俺がおらんっち何もできんと?」
「そう俺、猪里がいないと何もできねーNo。マジ猪里ちゃん愛してRu!」
猪里は飽きれついでに皮肉を言ったつもりだった。が、ひどく自惚れた発言であった事と、虎鉄からの軽い返事が気に入らないのとで、すぐに苦虫を噛み潰したような顔になる。
「愛しとうなんて、そげな軽々しくゆうもんじゃなかよ」
ここまで言って、また余計な事を言ってしまった事に猪里は気付く。
今の自分はどう見えているだろうか。
ただの、お節介な友人に見えているだろうか。
誰にでも言っているんだろう、という嫉妬心は見透かされていないだろうか。
「だって、マジで猪里の事愛してるShi?で、猪里は俺の事愛してRu?」
虎鉄は面白そうに、楽しそうに、ニヤリと笑って言う。猪里は、自惚れた自分と嫉妬心を笑われたようで、居た堪れない気持ちになり、勢い良く立ち上がる。
「俺帰るけん、後は一人で―
「猪里、」
名前を呼ばれた。
猪里は恐る恐る、という様子でちらりと虎鉄の方を見る。
鋭い眼差しに射抜かれるとは、こういうことだろうか、と思う。逸らす事など許されないと思う程、虎鉄は猪里を見詰めていた。そして、いつの間にか、右腕を掴まれていて。これ以上ここに居ては危険だと、猪里の脳内でサイレンが鳴り響く。じわりじわりと、汗が滲む。

「猪里、俺の事―
「…こ、虎鉄ん事なんか、愛しとらんちゃ!」

絞り出した言葉は、いつもの通り、憎まれ口。
必死な顔をした猪里の右目から、ぽろり、と涙が一滴落ちた。

8月31日。とびっきりの憎まれ口を叩き込み、猪里は虎鉄の家を飛び出した。隠しきれない、燃ゆる想いを抱いて。猪里にとってそれは、大層迷惑な感情でしかなかった。



(サルビア,花言葉―燃ゆる想い)



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