鏡張りの慕情 | ナノ


▼ それからゆっくり話そう




「ついたよー」

「わーおっきいねー」

「2人とも、人が来るかもしれないから」


健良の言葉にガブモンがぱくんと口を閉じた後、なまえを見て静かにとでも言うように人差し指を口に当てる。
なまえが何とも言えない顔をしているのを見て健良が少し噴き出した。


「ジェンも静かに」

「ごめんごめん」


エントランスの鍵を開けてエレベーターに乗り込むまでの間、ガブモンは物珍しげにマンションの中を観察していた。
なまえは少し落ち着きのないガブモンを抱っこしながら静かに健良の後ろをついていく。
無人のエレベーターに乗り込み4人が一息ついた所でなまえが口を開いた。


「本当にお邪魔しちゃっていいの?」

「うん、家は全然…脚大丈夫?痛いよね…」


そう言って健良がなまえの脚を見ると、傷を覆う水色のハンカチがところどころ赤く滲んでいる。
あまりまじまじと見るのも悪いかと健良が目線を戻すと、何か物言いたげななまえと目が合った。


「あの、ジェン君」


そうなまえが口にした時、いつの間に到着したのかエレベーターが開き2人してガブモンとテリアモンを抱く腕を硬直させる。
幸いエレベーターの前には誰も居らず2人はほっとして廊下を歩きだした。
健良が家のドアの前に立ちなまえに向き直る。色々と聞きたい事、話したい事があるのだろう、不安げに伏せられた目が儚げで健良は思わずその肩に触れた。


「まず手当てしてもらって、それからゆっくり話そう?」

「…うん」


健良がドアを開けてなまえを家に招き入れる。お邪魔しますと敷居をまたぐと、下駄箱の上に飾られたポプリの香りがなまえを出迎えた。
ちょっと待ってて、と言い残し健良が居間に向かう。
残されたなまえは手持無沙汰にガブモンの頭を撫でていた。

ふと、なまえの手が止まりどうしたのかとガブモンが顔をあげる。
ぼうっと立ち尽くすなまえの目の前には綺麗にまとめられた写真立てが置いてあった。
健良を含めて子どもが4人、そしてその後ろには仲睦まじく寄り添う男女が写っていて、6人が6人とも、とても人の好さそうな優しい目をしている。


「…」


なまえは何も言わず、ただじっと写真を見つめていた。
何かを思案しているようなその顔がどこか悲しげに見えてガブモンはたまらずなまえに抱き着いた。


「あらあら大丈夫?」


突然聞こえた見知らぬ女性の声になまえもガブモンもびくりと肩を跳ね上げた。
振り向くと写真に写っていたあの女性がぱたぱたと急ぎ足でこちらに近づいてきていた。なまえは慌てて頭を下げる。


「す、すみませんっ急にお邪魔しちゃって…」

「こんばんは。大丈夫よ、気にしないで。それより怪我しちゃったんですって?見せてくれる?」

「あっはい…」


健良の母親は息子に似た柔和な笑みでなまえを迎えた。
言われるがままに巻いていたハンカチを解くと乾いた血が傷口を広げなまえは痛みに顔をしかめる。
李夫人は労わるようになまえの脚を撫でそれ以上傷が開かないように優しくハンカチを巻き直した。


「一度綺麗に洗った方がいいわね、シャワーで流しましょうか。歩ける?」

「は、はい」

「健良、救急箱持ってきて」

「わかった」


健良がなまえからガブモンを預かり廊下を渡る。
なまえは頬を紅潮させながら李夫人の後をついてお風呂場に向かった。





(ガブモン、ちょっとテリアモンと待ってて)
(うん)
(いらっしゃーいジェンの部屋―)

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