鏡張りの慕情 | ナノ


▼ …行こう、レナモン




「ねえ、あんたテイマーでしょ」


ガブモンがいるからと人目を避けて入った小道は正しい道ではなかった。
暗闇から現れた少女と恐ろしくも美しい狐の獣人は冷ややかな瞳でなまえとガブモンを見据える。


「デジモンバトルだよ」
















「ねーえジェン。今日帰ったらちょっとだけパソコンしてもいーいー?」

「…」

「ねーえ、ジェンってばあー」

「…あっごめん。何?」

「もぉー」


健良の頭上でテリアモンが軽く頬を膨らませた。
啓人とギルモンと別れ、すっかり日の落ちた街を家路につく。
人気のない街路樹の道で、ひとつ向こうの通りの喧騒がどこか遠く響いていた。


「ごめんごめん。饅頭だっけ?」

「もー!違うよー」

「あははパソコンね、いいよ」

「わーい。やったー……?」


喜んで耳をあげたテリアモンが一瞬息を止め、健良の頭から飛び降りて即座に辺りを見回す。
健良が何事かと構えた次の瞬間、花火にも似た発砲音の後に何かが金網にぶつかるような音がして、その音を合図にテリアモンが脱兎の如く駆け出した。


「あ…」


駆け付けた先に悠然と構える、見覚えのある人物に気が付くと健良は嫌悪感で顔をしかめた。
遠くの車のヘッドライトがその人物ともう1人、地面に座り込む人影を浮かび上がらせた。

学生服を着た少女が恐怖の表情を浮かべ、半ば倒れるように地面に座り込んでいる。
脚を震わせながらも必死に腕を伸ばし何かを掴もうとしていた。


「……ガブモ、ン…っ」


聞いているこちらの胸が張り裂けそうになる程切ない声で少女が自分のパートナーの名を呼ぶ。
少女の数歩先に立つガブモンの口からは煙りがくすぶり、金網に衝突したであろうレナモンの毛並みは乱れていた。
この距離では止められない。健良が声を張り上げる。


「やめろ!!」


突如として響いた第三者の声に少女達の動きが止まる。
腕を組みながら相手を見下す少女は健良に気付いた瞬間、驚きに少し口を開きかけたがすぐに真一文字に結びなおし自分のパートナーデジモンに静かに指示を仰いだ。


「レナモン」

「…」


極限まで研ぎ澄まされた緑の刃が、レナモンの周囲に浮かび上がる。
ガブモンが防御体制に入るよりも早く健良がデジヴァイスに手を掛けた。


「ウォーグレイモン:ブレイブシールド!」


テイマ−から授かった龍戦士の盾を手にテリアモンがガブモンとレナモンの間に突進する。
健良は間に合った、と安堵しデジヴァイスを握る力を緩めていた。
だが、安心しきっていた視線が三者の交わる点をとらえた時、身体中に電気が走り健良は無意識のうちに駆け出していた。


「え!?」

「…っ」

「駄目だ!」


テリアモンが防ぎ損ねた刃が、乾いた地面に衝突し砂煙をあげる。
砂煙をまともに喰らった健良が目をこすり顔をあげると、そこにレナモンとそのテイマーの姿は無く、ただ茫然と立ちすくむテリアモンと、その視線の先でガブモンに覆いかぶさりながらすすり泣く少女の姿だけがみえた。






(…)
(ルキ)
(…行こう、レナモン)

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